新型車発表会の裏側 メーカーとジャーナリストは何をしている?(前編) リアルイベントが重要なワケ UK編集部記者の視点

公開 : 2026.01.12 11:25

撮影の待ち時間に記事を仕上げる

インタビューと製品デモを終え、隣の部屋で3台の車両のうち1台を撮影する順番待ちの間、記事を書く。重要なコメントを書き起こし、下書きを完成させるまでに約1時間が経過するが、撮影開始までさらに2時間待たねばならない。

ただ、この時間はちょうど良い。紙の雑誌版とウェブ版で異なるバージョンの記事を書く必要があるからだ。特にウェブ版は検索エンジン対応など調整が求められる。この待ち時間は、市場全体の動向を論じるコラムや、インタビューで得た追加情報など、フォローアップ記事の構想を練る絶好の機会でもある。

撮影用の車両はおおむね複数台用意されるが、どうしても待ち時間が発生する。
撮影用の車両はおおむね複数台用意されるが、どうしても待ち時間が発生する。

最後に、車両撮影のため別の部屋に移動し、カメラ映えが最も良いイエローのトゥインゴを選んだ。そしてクルマの周りをぐるぐると回りながら、スマートフォンでさまざまな音を録音していく。撮影自体は大体15分程度だが、この時の動画はソーシャルメディアで100万回近く再生されることになった。

落ち着く間もなく、筆者は英国行きの飛行機に乗った。金曜の夜、すべての作業が終わり、うまくいったという感覚を得られた。うとうとしながら、上司や同僚たちと連絡を取り合い、来週のことを考え始めた。また別の国で、また数千語の記事を書かなければならない。

このようにしてわたし達の仕事は続いていく。

新型車発表会は重要? 業界の「中の人」が明かす

メディアにとって発表会は重要な場だが、自動車メーカー自身が得られるものはあるのだろうか? 筆者はルノーUK(英国部門)の広報部長であるジム・ホルダー氏に話を伺った。彼は元AUTOCAR英国編集部の編集者であり、発表会の両サイド(メーカー側とメディア側)を経験している人物だ。

――プレスリリースと写真を公開するだけでなく、発表会を開くのはなぜでしょうか?

メディアにリアルな情報を伝えてもらうために、メーカーは発表会を開くのだという。
メディアにリアルな情報を伝えてもらうために、メーカーは発表会を開くのだという。

「より深く、真実味のある質の高い情報を伝えるためです。メディアに命と深みのある最高のストーリーを伝えてもらうためには、クルマや開発者たちと過ごす時間が不可欠です。動画やソーシャルメディアでは特に顕著です。コンテンツ制作者は画面に自らの個性を反映させようとするからです。これは、紙媒体やオンラインメディアにも当てはまります。発表会を通して、双方(メディアとメーカー)の専門性を伝える深い記事が書けるようになり、クルマの手触りを伝え、その背景にある人間味あふれるストーリーを語ることができるのです」

――こうしたイベントはどれほど前から計画されるのでしょうか? また、本社の広報チームと各国支部の調整はどれほど複雑なのでしょうか?

「初期計画は少なくとも1年前から始まりますが、大半の大規模イベントと同様、数か月前から具体化していきます。本社がイベントを企画し、数か月前になると各国の広報部門がどのメディアを招待するかを検討し始めます。問題は、現代のメディアは時間を非常に効率的に使わなければならないため、担当者との面会時間や撮影時間を優先的に確保する必要がある点です」

――イベントの開催場所や方法はどう決めるのでしょうか? また、そこにはどんな課題がありますか?

「ルノーは誇り高きフランス企業です。そのため、実用性と感情的な理由から、発表の大半はパリで行われます。モーターショーは例外ですが、それでも大半のショーの前には、メディアが詳細な報道を準備できるよう、公開禁止情報の事前発表を行います(エンバーゴ)。では、なぜメディアがわざわざモーターショーに足を運ぶのかと疑問に思われるかもしれません。実際、会場に行かないメディアもあります。ですが、深い洞察を求める人にとって、モーターショーは企業の担当者全員と直接会えるチャンスなのです。CEOに質問をぶつけることも、クレイモデルを制作したデザイナーとボンネットラインのニュアンスについて議論することもできます」

――こうした取り組みの成果をどのように測定し、評価しているのですか?

「報道量、報道価値、シェア・オブ・ボイス(SOV)など、さまざまな指標があります。ご想像のとおり、価値の測定や、過去のベンチマーク、他国、ライバルメーカーとの比較を繰り返す企業もあります。しかし、わたしは直感も非常に重要だと考えています。国レベルでは、イベントを最大限に活用できたかどうか、少なくともメディアがかなり率直に教えてくれることもありますね」

(翻訳者注:この記事は「後編」へ続きます。)

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    役職:編集アシスタント
    2022年よりAUTOCARに加わり、ニュースデスクの一員として、新車発表や業界イベントの報道において重要な役割を担っている。印刷版やオンライン版の記事を執筆し、暇さえあればフィアット・パンダ100HP の故障について愚痴をこぼしている。産業界や社会問題に関するテーマを得意とする。これまで運転した中で最高のクルマはアルピーヌ A110 GTだが、自分には手が出せない価格であることが唯一の不満。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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