ロングノーズの2シーターという理想的なプロポーションのもと生まれたこのクルマは、直線で注目を集めるマッスル・カーや、ラップ・タイムを縮めるためのサーキット・マシンらしい性格も持ちあわせている。グランド・ツアラーであるにもかかわらずだ。

室内にいるかぎり安楽に感じられるのは、エンジンが発するノイズをほとんど抑制しているから。高速域に達するにしたがってサスペンションがしっとりとした感覚をもたらすのも、そう感じられる理由である。

もちろんスピードも、GTの持ち味のひとつであるが決してスピードだけがセリング・ポイントでない点もGTの特長だ。

絶対的なスピードでいえばポルシェ911ターボやアウディR8 V10プラス、最新の日産GT-Rに水をあけられるのだが、これには駆動方式が影響している。

フロント・エンジン、リア駆動を採用したジャガーF-タイプRクーペやアストン・マーティンV12ヴァンテージSなどが、上記のモデルにスピードの面で勝てないのと同じである。

しかしながら感覚としては、ものすごく速いクルマに乗っていると感じる。スロットル・レスポンスは研ぎたての包丁のように鋭いし、ラグの類も一切看取されない。

低回転域からもりもりとパワーが湧き出し、6000rpmまでも軽やかに回る。7000rpmに至るまで、その鮮やかさを失わないのだからかなりの名機だといえよう。

ローンチ・コントロール・システムも(SLSとちがって)優秀な仕事をおこなう。ブレーキのもたらす制動力もかなりのものだ。

ただしオプションのカーボン・セラミック・ブレーキを選んでいるゆえ、多くの例に違わず踏力フィールは今ひとつである。

■乗り心地とハンドリング

“AMGは、われわれのテスト車両よりも硬いサスペンションを用意しているというのだ。信じられない。” ― ニック・カケット(ロードテスター)

SLSは、同クラスのなかで決してトップ・クラスのハンドリング・カーというわけではなかった。そしてGT Sも同じだ。

しかしどちらとも、猪突猛進するところなど、根本的には似通った部分は多い。

飛ばしてみれば、どっしりと落ち着いていることがわかる。硬いし粘り強い、それにダイレクトだ。