ベストドライバーズカー選手権2016 / TOP3決定戦

公開 : 2016.11.26 05:50  更新 : 2017.05.29 18:27

ポルシェ911Rの場合、問題はそうした実体的なことではなく、もっと観念的だ。911ファミリーはバリエーションを拡げ続けているが、昨年のGT3RSも、その前年のGT3もトップを獲ることはできなかった。

911Rは、そのGT3のシャシーとRSのエンジンを組み合わせたようなメカニズムの持ち主だ。そして勝負の相手は、RSを負かしたフェラーリと、初参戦ながら敢闘必死のマクラーレンなのである。

ただし、クルマは時として、各パーツの足し算を超えた性能を見せることがある。911Rは、まさにその典型だ。911としては最速でも、もっとも使い勝手のいいGTでもないが、ドライビングはベスト。

サラブレッドという謳い文句に偽りはなく、ポルシェのGTとしての高い資質とも相まって、このコンペには最適なモデルとなっている。

この911Rは、競合する2台との違いが際立っている。自然吸気エンジンも、3ペダルのMT車もこれだけだ。また、エンジン搭載位置がドライバー直後ではなくボディの後端。

ボディ・サイズはほかより小さい。488GTBのような唸りもなければ、675LTのような空力性能が生む超絶的グリップもない。純粋なスピードではほかの2台に及ばないし、客観的評価では、どの基準で見ても3番目だ。

しかし、クルマは人間が運転するものであり、その人間の感覚はまさに十人十色。スペック表の数字が評価基準のすべてではない。

また、シフト・チェンジの感触や、8000rpm以上で急激に高まるフラット6サウンドなどは、われわれを魅了してやまない。確かに488GTBと675LTのターボ・エンジンはレスポンスに優れるが、911Rのスロットルはマッピングが脳と直結されているようにさえ感じられる。

公道上では、より長い間、より性能を引き出せる。理由のひとつには、ほかの2台より絶対値が低いことがあるが、それ以上に効いているのはボディのコンパクトさだろう。

488GTBと675LTはかなりワイドで、今回のテストコースではそれが制限になるが、911Rにはそれがない。そのため、運転がイージーなだけでなく、ポテンシャルを余すところなく使い切れるので、ほかより速いのだ。

ポルシェが911Rにおいて重視したのは、ストリートカーとしての資質だ。そのため、この手のクルマではお決まりの性能指標となるニュルブルクリンクでのラップ・タイムを、未計測として公表しないというのも、たいして驚くことではない。

むしろ驚くべきは、そうした位置付けでありながら、サーキットでも見劣りしないことだ。「ドライバーの気まぐれにもステップを合わせてくれるようで、マシーンとの完璧なハーモニーを感じられる」というのは、公道とサーキットを通じてミュアーが抱いた感想だ。

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