ピアニスト長谷川琴美が聴いた、マセラティの美しい走り(前編) 移動そのものが美しい体験
公開 : 2026.08.12 11:45
クルマを愛するピアニストのKOTOMIこと長谷川琴美が、初めてマセラティ・グランカブリオのステアリングを握りました。イタリア文化にも精通する音楽家から見たラグジュアリーモデルの魅力を、前後編に渡って紹介します。
『音』を意識させるクルマ
エンジンを始動した瞬間、ある言葉が頭に浮かんだ。
スフォルツァンド(sf)。

『その音だけを特に強く』という意味を持つ音楽用語である。大きな音で威圧するわけではない。けれど、その一音だけ空気の密度が変わるような、確かな存在感を宿す。
マセラティ グランカブリオのV6エンジンが目を覚ました瞬間は、まさにそんな印象だった。
ふと視線を落とすと、ダッシュボードには『sf』、ソナス ファベール社のスピーカーのロゴが目に映った。
これは偶然の一致なのだと思う。けれど、イタリック体で刻まれたその2文字は、楽譜に書かれたスフォルツァンドそのものに思えた。
この一台は、エンジンをかけたその時から『音』を意識させるクルマであった。
『美しく移動する』ための所作
私は普段、マニュアル車を好んで運転している。クラッチを踏み、回転数を合わせ、シフトを選ぶ。マニュアル車の運転は、常に身体と頭を使う運動のようなものだ。その手応えこそが、私にとって大きな魅力でもある。
一方、グランカブリオは対照的だった。ステアリングを切る感覚も、シフトを選ぶ操作も、驚くほど滑らかで、どこか余裕がある。手足を巧みに動かしてクルマを操るというよりも、クルマに身を預けながら、静かに流れていくような感覚だった。

『速く走る』ためではなく、『美しく移動する』ための所作。
そんな言葉が自然と浮かんだ。
乗り込むとまず感じるシートのゆとりも印象的だ。身体をやわらかくしっかりと受け止めてくれるのに、圧迫感はない。たとえロングドレスを着ていたとしても、窮屈さを感じさせないような空間がそこにはあった。
このクルマは、目的地へ向かう時間そのものを楽しませてくれるのだろう。
例えば、オペラやバレエを観に行く夜。劇場へ着く前、車内にいるその時間から、特別な夜はもう始まっている。グランカブリオには、そんな時間の始まり方がよく似合うと思った。
オペラハウスからインスピレーションを得た2台
そういえばマセラティは昨秋、メッカニカ リーリカというワンオフモデルを発表している。
モデナのオペラハウスからインスピレーションを得たという美しい2台は、劇場のホールやカーテンのベルベットを想起させる『ロッソ・ヴェッルート』(グラントゥーリズモ)とシャンパンカラーの『オーロ・リリコ』(グランカブリオ)というボディカラーを纏っていた。

搭載される『メッカニカ リーリカ エキゾースト』のサウンドは、走行モードやエンジンのスタートに応じて、多彩な音色を奏でるという。ぜひ一度、その音色を体感してみたい。



















