【はかなく消えた妖艶ボディ】コード810 ビバリー 1935年生まれの未完の名車 後編

公開 : 2020.11.14 16:50  更新 : 2020.12.08 08:18

ソファーのようなシートに柔軟なV8

ボディサイズは大きいが、威圧感は少ない。ヘッドライトのないフロントエンドに、コフィン・ノーズ、背の高いルーフラインは、少し不気味にも見える。

リアヒンジのスーイサイド・ドアを開き、上品なブルーのシートに腰を下ろす。着座位置は、この頃のクルマにしては低い。

ゆったりとした肘掛け付きのソファーが2脚、フロントに並ぶ。ダッシュボードの造形も見事。贅沢な旅を予感させる。

フロントガラスは、左右分割式。換気のために開くことができる。視界はあまり良くない。太いピラーと、楕円形のリアウインドウも、多くの死角を生んでいる。

ステアリングホイールには、クラクションを鳴らせるホーンリングが付く。ダッシュボード中央の多くのスイッチ類は、航空機のコンソールに影響を受けている。

ヘッドライトの回転スイッチは、ダッシュボード下。反時計回りに回すと、約5秒で目を開く。

クラッチペダルを床に踏み込むと、エンジンに火が付く。1速から2速へ、まっすぐスライドさせる。次にクラッチペダルを踏み込んだタイミングで、変速が行われる。

変速を急いではいけない。ハンドブレーキのかわりに、ギアを入れっぱなしにもできない。しかし、普通に運転している限りは、良く機能する。

落ち着いた質感のV8エンジンは、積極的にシフトアップしたくなる。目立った特徴はないものの、滑らかでフレキシブル。第二次大戦以前の英国では難しかったが、オーバードライブに入れて、快適なオープンロードでのクルージングが楽しめるだろう。

先進的でありながら未完成だった

オースチン・セブンやモーリス・エイトのドライバーは、流線型の低いボディを見て、どう感じただろうか。

1930年代の北米でも、州をまたぐ高速道路の整備はこれから。しかし、新しい道路環境に対応できる余力が、コードにはあった。当時の多くのドライバーが知ることのなかった、安定性と落ち着いた走りを、すでに獲得していた。

コード810 ビバリー(1935年〜1937年)
コード810 ビバリー(1935年〜1937年)

乗り心地は硬めだが、豪奢で肉厚なシート・クッションが丸めてくれる。現代のスポーツ・サルーンと呼ぶような素性を、自然に生み出している。

コーナリング時のロールは小さく、力強く前輪がボディを引っ張ってくれる。加速時でも、ステアリングホイールを握る指先には、手応えが伝わってくる。

素晴らしいクルマだ。しかし、コード810は先進的でありながらも、未完成だった。

カリスマ性を備えていても、多くの人々は高級車に、さらに大きなボディを期待していた。美しいスタイリングをまとい、高い技術的を備えていても、信頼性の悪さがすべてを否定してしまった。

仮にコード810に熟成期間があったのなら、もう少しの成功は得られたかもしれない。でも、均質化が進む1940年代から1950年代のアメリカ自動車産業の中で、コードらしさを長く保てたとも考えられない。

それゆえにコード810には価値があり、特別なのだ。

コード810 ビバリー(1935年〜1937年)のスペック

価格:新車時 2545ドル/現在 7万ポンド(945万円)以下
生産台数:1174台(812は1146台)
全長:4953mm
全幅:1803mm
全高:1524mm
最高速度:157km/h
0-97km/h加速:20.1秒
燃費:24.1km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1685kg
パワートレイン:V型8気筒4729cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:126ps/3500rpm
最大トルク:30.7kg-m/1700rpm
ギアボックス:4速セミ・オートマティック

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