【007のQに選ばれたE】BMW Z3と750iL、Z8 1990年代のボンドカーを比較 後編

公開 : 2021.10.03 17:45  更新 : 2021.10.12 16:20

エンジンはE39型M5と同じV8

BMW Z8は既存のプラットフォームを流用していない。アルミニウム・ボディの内側には、専用のスペースフレームが組まれている。殆どが手作業で組み立てられたという。

ただし、エンジンルーム後方に搭載されるエンジンは既存品。E39型M5用の、S92と呼ばれる自然吸気のV型8気筒だ。排気量4941ccから、400psと50.9kg-mを発揮する。

BMW Z8(1999〜2003年/欧州仕様)
BMW Z8(1999〜2003年/欧州仕様)

シルバーのドアを開くと、ブラックに組み合わされた鮮やかなレッドに目がくらむ。シルバーで仕上げられたスイッチ類が、アクセントを生む。

Z8の着座位置は低い。ステアリングホイールは径が大きいがリムは細身。MTのシフトノブは、手を伸ばしたそこにある。

ダッシュボードの上面は大きくカーブを描き、ドアまで続いている。メーターパネルはダッシュボードの中央。ステアリングホイールの奥には、イグニッションとヘッドライトのスイッチくらいしかない。

BMWの、伝統的なドライバー・フォーカスとは異なるコクピットといえる。独創的とも呼べる。モダンなインフォテインメント・システムは、パネルの後ろに隠せる。

5.0LのV8エンジンは豊満なパワーを滑らかに生み出し、苦もなくスピードを高める。V8らしいビートがドライバーを包む。すべての操作系には、意図的な重み付けが与えられている。

ステアリングホイールはリニアで手応えも好感触。クラッチやブレーキペダルの重み付けも丁度いい。6速MTのシフトレバーもスムーズに動く。

リラックスしたグランドツアラー

シャシーはソフト寄りの設定ながら、Z3よりダンピングは強め。不規則な入力が連続して加わっても、姿勢制御が落ち着かなくなることはない。

穏やかなアンダーステア傾向があり、操縦性には軽快に感じさせるバランスがある。アクセルペダルでのライン調整も難しくない。

BMW Z8(1999〜2003年/欧州仕様)
BMW Z8(1999〜2003年/欧州仕様)

理由は不明だが、Z8にはLSDが備わらない。400psのFRスポーツカーなのに。新車当時、自動車メディアはアイデンティティがまとまっていない、と批判することもあった。

ハイパワーなスポーツカーというより、リラックスしたグランドツアラーだったのだろう。LSDだけでなく、Mのエンブレムが貼られることもなかった。能力の80%くらいまでを楽しむ、ロードスターだといえる。

アルプスの峠を攻め込んだり、サーキットの走行会でタイムを削るタイプではない。それを理解していれば、Z8へ強く好意を抱いてしまう。市場での注目も高いままだ。

BMWは1999年から2003年までの間に、Z8を5703台生産した。さらに、50年間分のスペアパーツも。

新車当時の英国価格は、8万6650ポンド。同時期のポルシェ911より3万ポンドほど高かった。現在での取引価格は、最低でも15万ポンド(2280万円)以上。20万ポンド(3040万円)くらい用意しないと、良い例は手に入らない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ベン・バリー

    Ben Barry

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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