免許を危ぶませる速さ BMW 1シリーズ Mクーペ GTライクなZ3 Mクーペ 小さなMの魔力(3)

公開 : 2025.12.27 17:55

代々続く小さな「M」 911級の加速力を持つ2002 ターボ 完全なホモロゲ・モデルの初代M3 2代目M3と同じ直6のZ3 Mクーペ 狂気じみた1シリーズ Mクーペ UK編集部が4台の魅力を探る

グランドツアラー的な上質さ 優しい乗り心地

E36型BMW M3と同じエンジンを積む、ピエロの靴、Z3 Mクーペ。このパワーを受け止めるべく、Mモデルには固定ルーフが必要だと当時の技術者、ブルクハルト・ゲシェル氏は主張していた。Z3 Mロードスターも存在したが。

高品質なキャビンは、適度な包まれ感が好ましい。シートは掛け心地が良く、ステアリングホイールは5スポーク。同時期のベントレーのように、スイッチやメーター類がセンターコンソールに並んでいる。

BMW Z3 Mクーペ(1998-2002年/英国仕様)
BMW Z3 Mクーペ(1998-2002年/英国仕様)    ジェイソン・フォン(Jayson Fong)

発進させても、グランドツアラー的な上質さが続く。シフトレバーの短いストロークには、少し引っ掛かりがあるとしても。

間違いなく速いものの、それ以上に溢れるトルクが頼もしい。中回転域での力強さは、向かうところ敵なし。操縦性の精密さは際立たなくても、多気筒・自然吸気の響きへ聴き惚れる。南フランスまで一気に目指せそうな、優しい乗り心地にうっとりする。

Mモデル初のターボエンジン 簡単に200km/h超

こんな体験と対照的なのが、2011年の1年間だけ生産された1シリーズ Mクーペ。今回の例は、バレンシア・オレンジの塗装が眩しい。軽量・小型で後輪駆動のM135iを素材に、より高性能な部品へ置換され、本物のMへ仕立てられている。

ボンネット内に収まるのは、3.0L 6気筒ツインターボ。Mを名乗り始めて、初のターボエンジンが積まれている。リアサスペンションとワイドなリアアクスル、LSD、ブレーキ、ホイールはE92型M3からの流用。張り出たフェンダーラインが勇ましい。

オレンジのBMW 1シリーズ Mクーペと、ホワイトのBMW 2002 ターボ
オレンジのBMW 1シリーズ Mクーペと、ホワイトのBMW 2002 ターボ    ジェイソン・フォン(Jayson Fong)

当時の多くの自動車メーカーと同様に、BMWも金融危機のあおりを受けた。生産数は6309台に留まり、英国へ上陸したのは450台しかない。

登場から15年が経過するものの、平然と200km/hを超えてみせる。運転免許を危ぶませる、能力の高さへ言葉を失う。近年は新車時以上の価格で取引される、隠れた人気のMモデルなこともうなずける。

今回の頂点にある1シリーズ Mクーペ

心地良い感触のシフトレバーでギアを落とし、右足へ力を込めれば、2002 ターボから続く進化の成果を実感できる。驚異的に速いだけでなく、見事なまでに扱いやすい。相当な自制心も必要といえる。

ステアリングは、今回の4台では群を抜いてハイレシオ。クイックな反面、E30型M3ほど感触は豊かではない。サスペンションは、サーキットが前提のように硬い。車重1495kgの後輪駆動に339psだから、常に正確な操縦が不可欠だ。

オレンジのBMW 1シリーズ Mクーペと、ホワイトのBMW 2002 ターボ
オレンジのBMW 1シリーズ Mクーペと、ホワイトのBMW 2002 ターボ    ジェイソン・フォン(Jayson Fong)

Mモデルの高みとして、1シリーズ Mクーペが今回の頂点にあることは間違いない。良い意味で、少し狂気じみたところへ惹かれる人は多いだろう。ただし、充足度の高い運転体験を得るには、公道ではばかれる速度域へ迫る必要がある。

筆者が連れて帰るなら、E30型の初代M3になるだろう。ワインディングでもサーキットでも、存分に甘美な時間を過ごせるから。特別な日のためのワイルドカードとして、2002 ターボも逃し難いけれど。

協力:ミュンヘン・レジェンド社、マット・ウェッブ氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェイソン・フォン

    Jayson Fong

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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