フォード・マスタング・マッハE GTへ試乗 486psと87.4kg-m 楽しいDNA受け継ぐ

公開 : 2021.11.03 08:25

ストロングポイントは自由度のある操縦性

今回試乗したクロアチアの荒れた路面での印象から察するに、英国の路面環境との相性はあまり良くないかもしれない。リアタイヤ側の落ち着きが少々足りず、不安定さを感じることもあった。

マスタング・マッハE GTのストロングポイントは、自由度のある操縦性。コーナーでは、アクセルペダル操作でフロントノーズを内側へ巻き込んでいくこともできる。ペダル操作から0.5秒もあれば発揮される極太の最大トルクのおかげで、意のままだ。

フォード・マスタング・マッハE GT(欧州仕様)
フォード・マスタング・マッハE GT(欧州仕様)

この挙動は、マッハE GTに与えられたニュートラル寄りの、40:60という前後の駆動力配分でありながら実現できている。通常のマスタング・マッハEの四輪駆動モデルでは、30:70に設定されている。

一方で突然、オーバーステア状態に変化することも。ESPがこらえきれず介入してしまう。よりチューニングが磨かれ、ESPの監視下の中で穏やかにオーバーステアへ推移するシャシーになれば、ドライビング体験は一層楽しいものになるだろう。

もう1つマッハE GTで気になる点が、ステアリング。切り初めの反応は良く、重み付けもクラス水準でいえば自然と呼べるもの。だがコーナーを攻めていくと、レシオがスローになるような印象を受けた。

優れた姿勢制御とアクセルペダルの反応を備えているだけに、シャシー能力を発揮できるステアリングも求めたくなる。現状では、コーナーへの進入時も頂点へラインを絞る時も、旋回する動きに抵抗感があるようだった。

運転が楽しい純EVへ一歩づつ接近

筆者としては、相当に積極的な運転をしなければ、オーバーステアへ持ち込めないことももどかしく感じた。低速域でのコーナリングはアンダーステアが支配的。BMW 3シリーズのようなスポーツサルーンが備える、充足度までは達成できていない。

確かに、ブレーキを用いたトルクベクタリング機能や、前後モーターの出力調整で、トラクションは完全に近い状態で制御されている。しかしフォードらしい、動的能力の一貫したアイデンティティのようなものは感じられなかった。

フォード・マスタング・マッハE GT(欧州仕様)
フォード・マスタング・マッハE GT(欧州仕様)

理性が効いた状態から、ワイルドな状態へ揺れ動くとでもいえようか。コーナーへ侵入するたびに。

通常のマスタング・マッハEの後輪駆動版、RWDは、より自然な操縦性のバランスを備えている。粘りのある操舵感は、内燃エンジンを搭載したフォード車にも通じる部分だ。

マッハE GTでも味わえるが、あと付け感が否めない。マスタング・マッハEで最も充足感のあるドライビング体験が得られる、とまではいい切れないだろう。

短時間の海外試乗ながら、マスタング・マッハE GTから受けた印象は大きかった。走りに定評があるフォードのDNAを受け継ぐモデルとして、運転が楽しい純EVへ、一歩づつ近づいていることは間違いなさそうだ。ポルシェがタイカンで挑んでいるように。

だが、向上したパフォーマンスと乗りやすさを兼ね備えているとはいえ、まだ期待には届いていない。英国価格6万5000ポンド(1007万円)のクルマとして。英国の道路環境で、改めて検証してみたい。

フォード・マスタング・マッハE GT(欧州仕様)のスペック

欧州価格:6万5080ポンド(1008万円)
全長:4712mm
全幅:1881mm
全高:1597mm
最高速度:199km/h
0-100km/h加速:3.7秒
航続距離:498km
電費:−
CO2排出量:−
車両重量:2198kg
パワートレイン:ツインAC同期モーター
バッテリー:88.8kWh(実容量)
最高出力:486ps(システム総合)
最大トルク:87.4kg-m(システム総合)
ギアボックス:−

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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