ACコブラの最終形 AC 289スポーツ Mk IIIのシャシーにスモールブロック 後編

公開 : 2022.02.19 07:06

米英合作のクラシックスポーツ、コブラ。スモールブロックV8にコイルサスの貴重な1台を、英国編集部がご紹介します。

289スポーツの生産台数は27台のみ

Mk III用のコイルスプリング・シャシーと、289cu.in(4.7L)のハイプロ・エンジンが組み合わされた、289スポーツ。ACコブラの最終形といえる。

今回ご紹介する、英国向けのシャシー番号が振られたCOB6116のコブラも、その貴重な1台だ。1967年から1969年にかけて、ACカーズ社の技術者、テムズ・ディットン氏が仕上げた数は僅か27台でしかない。

AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)
AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)

1967年に工場をラインオフしたボディは、当初はパシフィックグリーンに塗られていた。納入先はロンドンの南西、サリー州のディーラー、ハーシャム&ウォルトン・モーターズ社だった。

そのCOB6116は、レーシングカー・コンストラクターのHWM(ハーシャム&ウォルトン・モータース)を共同で創設した、ジョージ・アベカシス氏が購入。主に一般道での移動に利用された。コブラのパッケージングと使い勝手の良さが活きたのだろう。

アスファルトへ遺憾なくパワーが解き放たれたコブラは、1970年代に入るとブライアン・アングリス氏の元へと渡る。彼はMk IIIのシャシーが受け入れることを前提としていた、ビッグブロックのV8へ載せ替えた。

アングリスが選んだのは、ACカーズのファクトリーモデルが採用していた、ソフトな428cu.in(7.0L)ユニットではなく、アグレッシブな427cu.in(7.0L)ユニットだった。ボディもエンジンに合わせて、その時点でフェンダーラインが広げられた。

その後、289スポーツは日本のファンが購入し、エンジンは302cu.in(5.0L)スモールブロックのV8へ換装。ボディも、メタリックブルーに塗り直された。

ほぼオリジナル状態へ戻されたコブラ

さらに2015年、ブルーの289スポーツは現在の英国人オーナーの元へ移ってきた。オリジナルにこだわる彼は、289ハイプロ・エンジンへ載せ替え、メカニズムの全面的なオーバーホールを実施した。

ボンネットとトランクリッド、ドアはオリジナルのまま。アングリスが施した筋肉質なフェンダーラインは残されたが、それ以外、シャシー番号COB6116はACカーズが意図した通りの状態へ戻されている。

AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)
AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)

見た目だけでなく、音響面でも当時の状態といえる。電圧を確かめ、燃料ポンプを起動し、キーをひねる。1967年にサリー州の工場であげた産声と同じ荒々しいノイズが、ボンネットから周囲に響く。後方から伸びた、ツイン・テールパイプからも。

スペックも当時の状態だから、最高出力はやや控え目の274ps/6000rpm。しかし車重が軽いクルマにとっては、現代でも大きな数字だ。最大トルクはその半分ほどの回転数で、43.0kg-mを発揮するという。

ハイポ・ユニットは充分にたくましく、950kgほどのコブラを活発に走らせる。見た目以上に、アクセルペダルを踏み込んだ時の躍動感が素晴らしい。

初期のコブラのパンフレットには計器類が揃ったメーターパネルなど、充実した装備が紹介されていたが、目抜き通りを流すタイプではない。振動を伴って、パワーが漲る。雷鳴のような轟音を放ちながら。

記事に関わった人々

  • 執筆

    グレッグ・マクレマン

    Greg Macleman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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