ACコブラの最終形 AC 289スポーツ Mk IIIのシャシーにスモールブロック 前編

公開 : 2022.02.19 07:05

米英合作のクラシックスポーツ、コブラ。スモールブロックV8にコイルサスの貴重な1台を、英国編集部がご紹介します。

フォードのV型8気筒にACエースのシャシー

英国なら、魚とジャガイモ。日本なら、カモにネギ。それくらい最高のマリアージュとなったのが、フォード社のV型8気筒スモールブロック・エンジンと、小柄で機敏なACエース社のシャシーだった。

その場しのぎ的な必要性と、大きな野心で作られたACコブラだったが、エンジンとシャシーとの組み合わせ以上の能力を発揮した。ワークス・スポーツカー耐久レース・シーンに影響を与え、1962年の誕生から半世紀が過ぎた今でも、伝説が消えることはない。

AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)
AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)

英国サリー州、ACカーズ社の技術者だったテムズ・ディットン氏と、北米テキサスのレーシングチームを率いたキャロル・シェルビー氏との合作が、ACコブラ。複数の仕様が存在したが、今回ご紹介するのはオリジナルの最終型、AC 289スポーツだ。

コブラの開発には、旧式化したフラッグシップ・モデルを再起させたいという、ACカーズ社のオーナー、ウィリアム・ハーロック氏とチャールズ・ハーロック氏の思いがあった。評判の良くないエンジンに対する解決策でもあった。

当初、コブラの前身となるACエースが搭載していたのは、ブリストル社やゼファー社の直列6気筒エンジン。設計が古くパワーも充分とはいえず、シャシーの潜在的な能力を発揮しきれずにいた。

そんなACカーズ社にとって、フォード社のV型8気筒は手っ取り早い代替ユニットになった。手頃なコストで、表彰台の上段に導いてくれる可能性を秘めていた。コブラ・プロジェクトを推進したシェルビーにとっても、夢の実現に適った手段といえた。

ハイプロと呼ばれた289ユニットへ

結果、当初に作られたコブラのプロトタイプは、基本的にはエースと殆ど変わらなかった。違いといえば、パワフルな260cu.in(4.3L)のV8エンジンと、シャシーへ施された変更や補強程度だ。

ロンドン郊外からロサンゼルスに到着したコブラは、サンタフェ・スプリングスに店を構えていたディーン・ムーン氏を経由し、シェルビーの元へと渡った。そこで早速、デビュー戦が待っていた。

AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)
AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)

1962年10月、カリフォルニア州リバーサイド・レースウェイで開催されたレースに出場すると、メカニズムの不具合で勝利は得られなかったものの、強さの一端を披露。シボレーコルベットを凌駕する走りを印象付けた。

コブラの強さを確信したシェルビーは、アップデートに着手。デフ側に組まれるインボード構造のブレーキはホイールハブ側へ移され、エンジンはハイプロと呼ばれた289cu.in(4.7L)のスモールブロックへ置換された。

結果、当初の260cu.inのV8エンジン版は、75台ほどしか作られていない。ちなみにシェルビーは、北米にコブラが届くとACカーズのエンブレムを外していたという。

その後Mk IIへ進化したシャシー番号CSX2126以降のコブラでは、ステアリングにラック・アンド・ピニオン式を採用。CSX2160以降には、フロントフェンダーにエアアウトレットが追加された。フェンダーもワイド化され、幅の広い6Jホイールを包んでいる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    グレッグ・マクレマン

    Greg Macleman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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