キャデラック・カスティリアン・エステートワゴン 8.2L V8に5.9mのフルサイズ 後編

公開 : 2022.03.13 07:06

完璧な快適性に浸れるシャシー

カスティリアンというモデル名は、スペイン中北部の言葉や様式を表す単語。当時のアメリカでは、映画界を中心に洗練されたものを表現するのに、スペイン語がしばしば用いられた。このクルマにもぴったりだ。クライスラー・コルドバも同時代のモデルだった。

ドアを開くと、パイピングが施された、枕のようにフカフカのレザーシートが迎えてくれる。反面、ダッシュボードやドアパネル、驚くほど小径で傾けられたステアリングホイールには、フェイクのローズウッドがあしらわれている。

キャデラック・カスティリアン・フリートウッド・エステートワゴン(1976年/北米仕様)
キャデラック・カスティリアン・フリートウッド・エステートワゴン(1976年/北米仕様)

ベンチシートは6ウェイの電動。エアコンも装備され、至って快適。メーターパネルは驚くほど小さく、100MPHまで書かれたスピードメーターに、燃料計と水温計しかない。警告灯が別のエリアに並ぶ。

パワーウインドウとドアロックのパネルは、運転席側ドアのアームレスト上。エアコンとクルーズコントロールのパネルが、ステアリングコラムの左側にある。

リアシートも広々としており、フットレストが内蔵されている。背もたれは倒せるが、広大な荷室を考えれば、その機能が必要とされる機会は少なかったはず。

セレクターでドライブを選ぶと、自動的に4枚のドアにロックが掛かる。1976年式キャデラックの新機能だった。サスペンションには、自動レベリング機能も付いている。

アクセルペダルを傾けると、息を吐くように静かなノイズで、大きなボディが進み始める。3速ATの動作は、殆ど気にならない。路面からの入力は見事に遮断され、ロードノイズも極めて静か。完璧な快適性に浸れる。

フルサイズ黄金期の最後を飾ったワゴン

最高出力192psは、車重を考えると控え目。49.6kg-mという豊かなトルクが2000rpmから湧き出てくるから、現代の交通にも馴染める、活発さと滑らかさがある。

40km/hを超える速度でコーナリングを試みると、アンダーステアへ転じ、フロントタイヤが鳴き出す。手応えも殆どない。少なくともレシオは高く、巨大なボディながら意外にも扱いやすい。

キャデラック・カスティリアン・フリートウッド・エステートワゴン(1976年/北米仕様)
キャデラック・カスティリアン・フリートウッド・エステートワゴン(1976年/北米仕様)

不思議なことに、全長5893mm、全幅1981mmというボディにもすぐに慣れた。ブレーキは漸進的に効く。それ以前のフルサイズ・アメリカンが装備した、効かないドラムブレーキとは異なる。

1960年代から1970年代にかけて、優れた大型のステーションワゴンが欲しければ、アメリカ車しか選択肢はなかった。デトロイトの堅牢なセパレートフレーム構造と、大排気量のエンジンが、ファミリーカーへ必要なすべてに対応した。

シートやウインドウは電動化され、大トルクのV8エンジンに手間いらずのAT。フルサイズのステーションワゴンは、過剰ともいえたアメリカ車の黄金期をよく表していた。

超高級といえたキャデラック・カスティリアン・エステートワゴンは、そのなかでも別格。アメリカのコーチビルドとハリウッド・セレブが結びついた、その時代の最後を飾ったモデルといえる。ファミリーカーとは違っていても。

マスキー法の改変で、徐々にパワーが失われていったアメリカ車。不遇の時期を迎えてもなお、輝けるステーションワゴンは誕生していたのだ。

協力:DDクラシックス社

キャデラック・カスティリアン・フリートウッド・エステートワゴン(1976年/北米仕様)のスペック

英国価格:3万ドル/5万ポンド(約775万円)以下(現在)
生産台数:11台(1976年)
全長:5893mm
全幅:1981mm
全高:1448mm
最高速度:177km/h
0-97km/h加速:11.0秒
燃費:3.5km/L
CO2排出量:−
車両重量:2540kg
パワートレイン:V型8気筒8194cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:192ps/3600rpm
最大トルク:49.6kg-m/2000rpm
ギアボックス:3速オートマティック

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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