R35GT−R再発見 15年を生き続けるゴジラ 高まり続けた性能と価格 まだまだ現役を張れる実力

公開 : 2022.03.05 20:25

走るほどに上がる好感度

もう一度、GT−R初体験の記憶をたどると、あの騒ぎはいったい何だったのかと不思議に思う。1700kgというウェイトはかなりの重量級で、そのパワーもかつては誰もが息を呑むほどだったが、いまやSUVやワゴン、はたまたEVでも達成できるものとなった。筆者はともかく、世の中的にそれは大事件ともいうべきクルマだったわけだが、それは今も通用する話なのだろうか。

しかし、のんびりと山道を走るうちに、以前よりは少しこのクルマが好きになっていた。3.8LツインターボV6が発するサウンドは、みごとなまでに偽りのないものだ。ときおりわずかにかかるブーストは、全開にすればまだまだ侮れない実力の持ち主だということをそれとなく示す。

R35GT−R専用の3.8LツインターボV6。標準仕様は570ps/65.0kg−m、ニスモ用は600ps/66.5kg−mを発生する。
R35GT−R専用の3.8LツインターボV6。標準仕様は570ps/65.0kg−m、ニスモ用は600ps/66.5kg−mを発生する。    MAX EDLESTON

ステアリングのよさは、想像をはるかに超えていた。きわめてダイレクトで、手応えは完璧。いまどきめったにないくらい、一体感が味わえる。

それゆえ、目的地に着く頃には、このクルマをすっかり把握できたように感じるまでになっていた。そこで、Rモードを選んで、全開で飛ばすことにした。

すべては一瞬の出来事だった。エンジンは雄叫びをあげ、ステアリングは右へ左へクルマを進ませる。指は必死にシフトチェンジを繰り返し、息遣いは荒く、早くなっていく。グリップはとてつもなく強力だ。最新のパフォーマンスカーの基準に照らしても、とくにフロントエンジン車としてはかなりのものだと言える。トラクションも信じ難いほどあり、いったんクルマと格闘するようなドライバー側の混乱ぶりが収まれば、じつに繊細な挙動でスライドさせることもできるようになる。

万人受けはしないが夢中になれるクルマ

頭はいっぱいになり、耳はノイズで聾され、手は車体を正しい方向へ向け続けることに終始する。最初のうちは、すべての感覚がバラバラに襲ってくるように思える。しかし、軽量鍛造ホイールの転がる距離が伸びるにつれ、自分がこのクルマのやり方になじんでくるのを感じる。噛み合ってくる、という感じだ。繊細ではないが、忙しいことには変わりない。常につま先を動かし続け、頭も身体もフルに使ったワークアウトを求めてくるクルマだ。そして、過去の記憶の中にあるGT−Rよりずっと楽しい。

なぜかと考えたが、その答えを導き出すのにそう時間はかからなかった。GT−Rニスモがデビューした当時でさえ、このクルマには先祖返りのようなところがあったのだ。じつのところ、この手のクルマが新たに造られることはもはやない。最新のパフォーマンスカーはこれよりずっと洗練され、クレバーで巧妙だが、ここまで夢中になれるかは疑問だ。個人的な意見をいえば、クルマがもたらす楽しみの大きさとは、どれくらい夢中にさせてくれるかということがダイレクトに表れたものだ。それはヴィンテージのベントレーでも、最新ハイパーカーでも変わらない。いわんやGT−Rをや、である。

公式にはアナウンスされていないが、0−97km/hは2.5秒と言われる。かなり大胆な数字だが、走らせるとそれも不可能ではないと思わせる実力が感じられる。
公式にはアナウンスされていないが、0−97km/hは2.5秒と言われる。かなり大胆な数字だが、走らせるとそれも不可能ではないと思わせる実力が感じられる。    MAX EDLESTON

正直、これが万人受けするクルマだとは思えなかった。それは自分も含めての感想であり、GT−Rニスモが新型車だったときもそうだった。それからますます時を重ねて、いかなるライバルたちよりも長寿となり、価格も上がった。もはや終わったクルマであってもおかしくない。

ところが、実際には生き残っていてくれてうれしいと思えるクルマだった。観光地に残された古い大きなガレオン船のように、乗ってみるとすばらしく、見渡せばそれがどう扱われていたものだったかを思い起こさせる。そして気づくのだ、進歩は必ずしも正しい方向に進むものではないのだということに。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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