100年前は英国2番手ブランド ベルサイズ15hpを振り返る 非力だった2.8L 4気筒 後編

公開 : 2022.06.25 07:06

操作を体が覚えるまで少しの時間が必要

ステアリングコラムは驚くほど長く、4スポークのステアリングホイールが手前側に伸びている。電流と電圧、油圧メーターが並ぶダッシュボードは、ドライバーから遠い。

ボンネットの先端、ラジエーターグリルの頂上部には、真鍮のフレームが可愛らしい、丸い水温計が載っている。ブランドのマスコットではなく。

ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)
ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)

右膝付近に伸びる4速マニュアルのシフトパターンは、一般的なH型。その隣にハンドブレーキのレバーがある。

ステアリングコラムの左右に、ブレーキペダルとクラッチペダルが1枚づつ。その中央にあるのがアクセルペダル。足が大きいと踏みにくい。

コーンクラッチの特性を考えながら、滑らないように、やや積極的につなぐ。ペダルのストロークが短く、扱いは素早く丁寧に。

アクセルペダルもストロークが短く、ステアリングホイールは低速域でかなり重い。すべての操作を体が覚えるまで、しばらくの時間が必要だ。

対してギアは比較的簡単に選べる。それでも、ちょっとしたテクニックが必要。1速から2速へはすんなり入るものの、3速と4速はダブルクラッチが求められる。程なくして、英国南部の寂れた一般道を、自然に走らせられるようになった。

ペースを掴むと、ステアリングはハイレシオだとわかる。幅の細いダンロップ・タイヤながら、鋭くノーズが向きを変える。オーナーが追加した摩擦式ショックアブソーバーのおかげで、明らかに操縦性が良い。

ブランド最終章を確認できる貴重な1台

ホイールベースが長いため、多少舗装が傷んでいてもさほど意に介さない。ブレーキはリアのドラムだけだが、100年前のクルマだと考えれば信頼感を抱けるほど効く。

しかし、サンビームやオースチンなどと異なり、2799ccの4気筒エンジンは低回転域でのパワーが不足気味。ノイズは、古いベントレーにも似た独特の味わいを持つけれど。

ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)
ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)

走らせてみると、よりコンパクトで洗練され、税制的にも有利だった当時のライバル・モデルと比較して、ベルサイズの大排気量エンジンは活気に欠ける。2022年にはその個性を1日中楽しんでいたいと思えるが、現役時代の100年前は違っていただろう。

1923年に、オーバーヘッド・バルブを備える3079ccエンジンが投入されるが、タイミングは遅すぎた。内容も、時代を掴んでいたとはいえなかった。ベルサイズ・モータースは、惜しくも1926年を迎えることができなかった。

歴史を物語る貴重な15hpへ実際に乗ってみると、倒産を余儀なくされた理由の1つが見えてくる。ほとんどの人が忘れてしまった英国ブランドの最終章を確認できる、貴重な1台だといえる。

クラシックカーとしての金銭的価値以上に、重要なモデルだといっていいだろう。

協力:マンチェスター科学産業博物館、ソフィー・リチャードソン氏、ジョシュア・バット氏著「1896-1939年のイングランド北西部に見る自動車普及の側面」

ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)のスペック

英国価格:540ポンド(新車時)/3万ポンド(約489万円)以下(現在)
販売台数:−
全長:4115mm
全幅:1676mm
全高:−
最高速度:88km/h(予想)
0-97km/h加速:−
燃費:6.4-7.8km/L
CO2排出量:−
車両重量:−
パワートレイン:直列4気筒2799cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:20.3ps(RAC値)
最大トルク:−
ギアボックス:4速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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