100年前は英国2番手ブランド ベルサイズ15hpを振り返る 非力だった2.8L 4気筒 後編

公開 : 2022.06.25 07:06

マンチェスターに存在した、今はなき大手自動車メーカー。英国編集部がブランド末期の貴重な1台をご紹介します。

手頃な価格のセブンが救ったオースチン

100年前の英国では、どの自動車メーカーも苦しい状況にあった。ベルサイズだけでなく、オースチンも1919年から1920年にかけて、労働者によるストライキに悩まされた。戦後の景気は著しく悪化し、自動車市場は50%も縮小していた。

クルマへ掛かる税制も変わり、主要モデルの魅力度は失われていた。結果的にオースチンは1921年に倒産。破産管財人の管理下に置かれてしまう。

ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)
ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)

ただし、オースチンは生き残ることができた。英国で自動車の民主化を推し進めた手頃な価格の小型乗用車、セブンが存在したからだ。

15hpを1919年に発売するベルサイズ・モータースもダウンサイジング化に取り組み、1094ccのVツインエンジン・モデルのブラッドショーを発売する。しかし信頼性が乏しく、状況の改善には結びつかなかった。運命の分かれ道といえた。

今回ご登場願ったベルサイズ15hpは、記録を辿ると1921年の登録。最初のオーナーは英国東部のノーフォーク州に住むハリー・サンダース氏で、CL540のナンバーを取得している。

彼名義のクルマが複数存在したことから、恐らく自動車販売業を営んでいたと考えられる。その半年後にチャールズ・パーマー氏が購入し、1924年に売却。以降の約40年間は、英国東部で4名のオーナーを経ている。

さらに英国中部でショコラティエを営んでいた、RJウィテカー氏が購入。彼はベルサイズをチョコレート・ブラウンに塗装し、走る広告として利用した。役目を終えると5名のオーナーを転々としながら、2003年にオリジナルのグリーンへ再塗装された。

美しく保たれたオリジナル状態

現オーナーのティム・プライス氏が迎え入れたのは2014年。SV9204のナンバーも、その時点で取得している。

彼はこれまでの7年間、部品の入手に苦労してきたと話す。しかし、技術者として積んだ経験が、15hpの命を絶やすことはなかった。

ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)
ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)

オリジナル状態の維持に熱心で、パワートレインやシャシー、ボディは細部に至るまで状態が良い。美しく保つだけでなく、乗りやすくするための改良も多く施されている。

ボディサイドに突き出たランニングボードは、真鍮で再現されている。ゴム類も新しい。木製のツールボックスも作り直された。漏れていた燃料タンクは修復され、ボンネット開口部の面も整っている。

内装へ目を配ると、ゴムの張られたフロアや、真鍮製の小物類もすべて新品のように艶がある。ソフトトップやサイドガラスにも、傷1つない。ダッシュボード裏の配線類も引き直してあるそうだ。

操縦性に神経質なところがあると感じたプライスは、フロント側にハートフォード社製の摩擦式ショックアブソーバーを追加した。100年前のクルマを、現代の公道で走らせるために。

エンジンが冷えた状態での始動は、少々手間数が多い。燃料供給スイッチを押してゼニス・キャブレターへガソリンを送り、減圧レバーを回しシリンダーを与圧。ステアリングホイール・ハブのレバーをスライドさせ、点火タイミングを遅らせる。

点火装置のマグネトー・スイッチを入れて、スターターを回す。機嫌よく2799ccの4気筒エンジンが目を覚ました。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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