フォルクスワーゲン・ゴルフSV 1.6TDI SE

公開 : 2014.07.30 23:30　　更新 : 2017.05.29 18:58

■どんなクルマ?

今年の初旬、ドイツでの初試乗でゴルフプラスの後継車であるゴルフSVを褒め称えたのは記憶にあたらしい。そして今回、いよいよ英国のアスファルトでその真価を試す時がきた。

スタンダードなゴルフのルックスを踏襲するSV(スポーツヴァン)はデビュー以来おおむね良好な評価を得てきたのだが、全体的なデザインは、保守的な印象を拭えない。しかしながら、ゴルフ7の全長+83mmの4338mmという長さはあなどれない。たかが83mmの延長ではあるのだが、使い勝手は飛躍的に良くなったのだ。

後部座席を起こした状態でのトランク容量は500ℓ、畳んだ状態では1520ℓ。標準的な乗用車の容量が380ℓということを考えれば、SVのもつ容量の大きさがよくわかる。ライバルであるフォードC-マックスの場合はシートを起こした状態で471ℓ、畳んだ状態で1723ℓとなっているのでこの値も参考にされたい。

テスト車は110psの1.6ℓTDIエンジンを積んだ中間グレードで、アダプティブ・クルーズ・コントロールや自動ヘッドライト、自動ワイパー、トリップ・コンピューター等の装備には抜かりはない。その他には前部座席の背もたれにシート・トレーが付き、£22,585(334万円)の車両価格にメタリック塗装が追加されていたため、最終的には£23,120(344万円)となっていた。

■どんな感じ?

運転に熱中できるとは感じないものの、実用性には満足できる。

内装から見ていくことにしよう。日常的に触れる大部分の場所は柔らかい手触りのプラスティックかレザーで覆われている。全体的には高級感のある仕上がりにはなっているのだが、安っぽいエアコンのスイッチ類に触れた時には、£410(6万1千円)のオプションを選ばなかったことに毎度後悔するはめになるだろう。

シートのサポート性は良好で、多くのドライバーは最適なポジションを探るのにさほど苦労しないはずだ。また前部、後部座席の両方には、足元と頭上に十分な余裕がある。

’実用的だ’ と言うに十分ではあるのだが、C-マックスのような賢さはない。たとえばドアの小物入れやシート・バックのポケットなど、大きめの小物を入れるのには適さないからだ。その一方後部座席は前後にスライドできるし、居心地悪そうなミドル・シートもフォードのように完全に折りたたむことができるのは好ましい。

1.6ℓのTDIユニットはなかなか有能ではあるが、高速道路ではやや息を荒らげる結果となった。

また5速マニュアル・トランスミッションの感触はカチリとしていたのだが、さすがに高速道路の速度域、とくに2000rpm前後では6速か7速のDSGトランスミッションを欲することがある。またAピラーやドア・ミラーから発生する風切り音は大きめだ。

ハッチバックのゴルフと同じフィーリングになるようにSVをつくった、というのがフォルクスワーゲンの主張である。実際に乗ってみても、操舵には安定感があるし、ステアリングの正確さや重みは良好なので、この主張は間違っていないと言えるだろう。コーナーでのボディ・ロールもかなり抑えられているため、長旅でも疲れることは無さそうだ。

エコ、ノーマル、スポーツからモードを選ぶことのできる、ドライバー・プロフィール・システムがゴルフSVには必要かどうかは議論の余地があるが、スポーツ・モードではスロットル・レスポンスが鋭くなるし、エコモードでは燃費が良くなるのでその恩恵を全く受けないわけではない。

公表値の25.6km/ℓには届かなかったが、様々なモードをバランスよく使った際の複合サイクル燃費の17.7km/ℓという数値はまずまずな結果だと言えるだろう。

■「買い」か?

他のライバルとは熾烈な戦いを繰り広げることにはなりそうだが、運転する上での楽しさを求める人は、柔軟性のあるC-マックスに心を揺さぶられるだろう。

ただしSVは、成熟したMPVであることに疑いの余地はない。保守的なルックスに好感を持つ層も決して少なくないはずだ。ゴルフよりも実用的で装備も充実し、広々として経済的なSVが、迷える層の琴線を揺らす確立は高い。

(ダレン・モス)