生産終了後も活躍したVIPカー ローバー3.5リッター P5B 後継不在の上級サルーン 後編

公開 : 2022.09.17 11:35

混乱する英国政府にあって、歴代首相の移動手段となったローバーP5B。VIPに慕われたサルーンを、英国編集部がご紹介します。

現代の交通に混ざっても強い存在感

マーガレット・サッチャー氏が首相最後の日に使用していたメモ帳は、その後のオークションで8万ポンドの値がついている。華々しい就任式典で用いられたローバーP5Bにも、相応の価値が生まれても不思議ではない。

しかし今のところ、オーナーのデイビッド・ウッズ氏は日常的に運転して楽しんでいる。ボディには目立った錆もなく、状態はかなり良かったという。艶のあるエボニー・ブラックの塗装とクロームメッキは、仕上げ直しているそうだ。

ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)
ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)

P5Bのプロポーションは、2022年に見ても美しい。ブラックのボディが風格を漂わせ、現代の交通に混ざっても存在感はかなり強い。

公用車としてGYE 392Nのナンバーで登録されたP5Bのボンネット内は、一見するとノーマルと変わりがない。それでも1970年代後半の基準としては、かなり高速なサルーンとして数えることができた。

サッチャーは、プライベートでもP5Bに乗っていた。運転手のニューウェルは、せっかちな彼女を可能な限り早く目的地へ運んだという。

首相就任後、彼女は防弾化されたローバーP5Bへ乗ることになった。車重が重く、走りには不満を抱いていたかもしれない。

生産終了後も英国の代表が乗ったP5B

このP5Bは、1974年12月から1979年10月までの公務で12万2300kmを走っている。現在の走行距離は14万8000kmまで伸びているが、インテリアはオリジナルのまま。表面が少し擦れている程度で、丁寧に乗られてきたことがうかがえる。

素材や質感は感心するほど高く、その頃の褒めにくかった英国車の製造品質が、ここには反映されていない。読書灯が追加されたリアシートはゆったりしていて快適で、足も疲れにくい。

ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)
ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)

フーパー・モーター・サービス社によるリア側のヘッドレストは、パーセルシェルフへ固定されていないのが面白い。リアガラスとシートとの間に、挟まっているだけだ。

ローバーP5Bは1973年に生産を終えるが、1981年まで公用車として英国の代表が乗ることになった。サッチャーも、小さくない問題意識を抱えていたはず。苦肉の策で生まれたようなブリティッシュ・レイランドの対策へ、向き合う姿勢を持っていた。

少なくとも英国市民は、税金が正しく使われていると感じていたようだ。P5Bは不足ない能力を備え、充分な役目を果たせると考えていた。税金から公用車に充てがわれる金額について、納得していた。

生産が終了しても、ローバーP5Bは国内的にも国際的にも、妥当なポジョションに収まっていた。とはいえ、次のバトンを受け取れる新モデルが登場しなかった、というのが実際のところではある。

記事に関わった人々

  • マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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