シンプルさは簡単ではない マツダCX-5(3) 長期テスト 明快に表現された躍動感

公開 : 2022.11.20 09:45

ドライビング・ファンなファミリーSUVといえる、CX-5。日本のマツダらしさが表れたモデルの仕上がりを、長期テストで確かめます。

積算6646km しなやかで穏やかで躍動的

「本当にファッショナブルでカッコイイことをしても、既に時代遅れだということもありえます」。欧州マツダでデザイン部門を率いる、ジョー・ステネット氏が口を開く。

マツダが近年掲げるデザインスタイルの「魂動デザイン」と、駆動系やシャシーを統合的に捉えたスカイアクティブ技術が統合された、CX-5に対しての回答だ。可能な限り美しい仕上がりを追求する専門家の意見として、少し不思議な内容ではある。

マツダCX-5 2.5 GTスポーツ・オート AWD(英国仕様)
マツダCX-5 2.5 GTスポーツ・オート AWD(英国仕様)

だがこれは、マツダ社内のデザイン哲学に関わる飛躍的な思考でもある。興味深いと感じるのは、筆者だけではないだろう。

実際のところ、CX-5には弱点もある。適正なサイズだと主張されているものの、スカイアクティブ技術の1つといえる2.5L 4気筒の自然空気エンジンは、強みとはいえないだろう。一方で、そのスタイリングを批判することは難しい。

多くの自動車メーカーが、プレス技術と美しさとのせめぎ合いへ疲れたように、アグレッシブな顔つきに執着する一方で、マツダのボディはしなやかで穏やか。ディテールへの気配りと、流れるような面構成が与えられたボディは、躍動的な印象も与える。

新型SUVのCX-60が発表された際に、筆者はステネットへ質問する機会があった。マツダのモデルに共通する、シンプルでありながら特徴的なスタイリングの背景へ興味を抱いたためだ。

シンプルさを保つことは簡単ではない

活躍するデザイナーとの会話は、しばしば迷宮に迷い込んだような、腑に落ちないやり取りになることもある。だが、彼の発言は明快なものだった。

「シンプルさを保つことは、簡単なことではありません。デザイナーは沢山の要素を付加し、キラキラしたスタイリングを描き出すことを好みます。わたしは、それにブレーキを掛けるんです」

欧州マツダでデザイン部門を率いる、ジョー・ステネット氏
欧州マツダでデザイン部門を率いる、ジョー・ステネット氏

「それぞれの部分が完璧である必要があります。例えばマツダ3の場合、Cピラーからドアにかけて流れるような一体感があると思います。これも、正解を求めた結果です」

「多くのメーカーは、変化を与えるようなラインを入れるだけに留まります。わたしたちはそれを望まなかったので、困難さを高めました」

このスタイリングの要求はデザイナーだけでなく、エンジニアにとっても課題となる。大きなパネルは走行中に共振を生む原因になりえるが、折り目を加えることで強度を増せる。流れるような面構成では、そうはいかない。

長期テストのCX-5は走行距離が6000kmを超えたが、ボディはシャキッと一切の衰えを感じさせない。これも、デザイナーとエンジニアの努力のたまものだろう。

「魂動デザイン」の躍動的な印象は、CX-5で最も明快に表現されているとも話す。「CX-5は最新の仕上げではなくなりましたが、ロングノーズを含めた全体のプロポーションは、非常にピュアなままです」

「フロントノーズから始まり、ボディサイドを流れてリアで降下する、長く伸びるラインも特徴。ボディの長さを強調しています」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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