ラストは600psで350台 アキュラ(ホンダ)NSX タイプSへ試乗 走りで深い記憶を刻む 後編

公開 : 2022.12.16 08:26

優れた能力を備えつつ、販売が伸び悩んだ2代目NSX。350台限定の最終仕様の仕上がりを、英国編集部が確認しました。

求めた瞬間に凄まじいトルクが放たれる

ホンダNSX タイプSのアクセルペダルを踏み込めば、聴覚は耳の直後から発生するサウンドに奪われる。デフォルトのノーマル・モードは、カリフォルニアの高級住宅地を流すために設けられている。スポーツ+モードで、鋭いNSXのすべてが開放される。

ミドシップされる3.5LのV6 VTECツインターボ・エンジンと、前後3基の駆動用モーターは、求めた瞬間に凄まじいトルクを生み出す。間髪入れず、とはまさにこのこと。衝撃的な加速力が放たれる。

アキュラ(ホンダ)NSX タイプS(北米仕様)
アキュラ(ホンダ)NSX タイプS(北米仕様)

磁性流体を用いた可変ダンパーとトルクベクタリング四輪駆動システムは、多少荒れた路面でも、サーキットの滑らかなアスファルトのように感じさせる。乗り心地はフラットで、グリップ力はとてつもない。目をみはるスピードでカーブを曲がる。

カーボンセラミック・ブレーキディスクが、軽くない車重を確実に受け止める。オプションのライトウエイト・パッケージを装備していても、NSX タイプSの車重は1733kgある。オリジナルのNSXより約400kg重い。

ちなみに、このパッケージで得られるアイテムは先出のカーボンセラミック・ブレーキの他に、カーボンファイバー製のエンジンカバーや専用インテリアトリムなどだ。

近年のモデル同様、先進的な技術が膨らんだ車重を見事にカバーする。特にトルクベクタリング機能の働きで、フロントノーズは極めてシャープに向きを変える。意欲的にコーナーへ飛び込み、出口では4本のタイヤがトルクを確実に路面へ伝える。

走りで深遠な記憶を刻むためのスーパーカー

NSX タイプSは感動的に速いが、機械に乗せられているという印象は強くはない。ドライバーの意思や入力を実現するため、見えないところで様々なコンポーネントやソフトウェアが、目立たないように一生懸命働いている。

とてもシームレスに複雑なシステムを実行させ、ドライバーの気持ちを鼓舞してくれる。価格が倍はするハイパーカーに迫る動的能力を、いともたやすく提供してくれる。

アキュラ(ホンダ)NSX タイプS(北米仕様)
アキュラ(ホンダ)NSX タイプS(北米仕様)

とはいえ、ライトウエイト・パッケージを装備したNSX タイプSの価格に近い、ポルシェ911 ターボより遥かに魅力的な体験というわけではない。永遠のアイドルの1台といえるモデルと比べた時、訴求力が充分とはいえないだろう。

これまでの7年間、結果的に多くのドライバーはポルシェを選んできた。NSXを選ぶということは、他人とは異なるマニアへの仲間入りを意味するともいえた。今後の希少性は期待できるけれど。

NSX タイプSは、ランボルギーニウラカンと同じくらい強い印象を残すとは思う。ウラカンが沢山の注目を集めたいようなクルマ好きが選ぶのに対し、NSXはシリアスに運転を楽しみたいクルマ好きが選ぶようなモデルだった。

その個性でいえば、オリジナルのNSXにも通じる。腕利きのドライバーが、スリリングなサーキットやアルプス山脈の峠道を運転し、深遠な記憶を刻むためのスーパーカーだ。市街地を賑やかに走るのではなく。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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