失うのが心底惜しい アウディTT RS アイコニック・エディションへ試乗 100台限定の記念仕様

公開 : 2023.04.24 08:25  更新 : 2023.06.09 08:18

モデルの廃盤が決定したTT。英国編集部が離島のドライブルートで、歴史に刻まれるクーペの魅力を確かめました。

ツーリスト・トロフィーにちなんだモデル名

アウディは、アイリッシュ海に浮かぶマン島恒例のバイクレース、マン・ツーリスト・トロフィーにちなんでこの名を与えた。コンパクトなクーペ、TTは初代の誕生から25年を迎えた。

タイヤが4本の自動車だから、世界有数のバイクレースへ出場した過去はない。だが現在のアウディのもとになった1社、NSUは、合併前にレーシングバイクを製造していた。250ccのマシンが、1954年に1位から4位までを独占する勝利を収めている。

アウディTT RS アイコニック・エディション(英国仕様)
アウディTT RS アイコニック・エディション(英国仕様)

アウディは、自社の誇るべき歴史をオマージュしたのだ。2+2のクーペで。正確には、ツーリスト・トロフィーと直接的な関係はないかもしれない。それでも、モデルの終了が決まった今、英国人として小さな島へ自ずと足が向かっても不思議ではないだろう。

ただし、今回目指したのはグレートブリテン島の南に浮かぶワイト島。風光明媚なこの島では、自転車のロードレースが計画されているという。

筆者は、マン島でツーリスト・トロフィーを観戦したことがある。今まで目にしたなかで、最もエキサイティングなモータースポーツ・イベントの1つに数えていい。

スタートラインからほど近いダグラスの町に、ブレイヒルと呼ばれる区間がある。住宅地へ面した道路には、信号機や街路灯が立ち並んでいる。48km/hの速度制限がある、狭い一般道だ。

そこを、オートバイに跨ったライダーが290km/h前後で疾走する。観客との距離は3m程しかない。見る方も命がけ。街路灯には、気休め程度の緩衝材しか巻かれていない。

100台限定のアイコニック・エディション

この公道レースは、1907年から変わらないスタイルで開催されているが、当初は現在ほどバイクが速くなかった。こんなイベントが、新たに承認されることは恐らくないだろう。実際、ライダーの死亡率は高い。

ワイト島で計画されているロードレースは、もっと穏やか。島の海岸線を含めた約19.6kmのコースが設定されている。時速50km/h程度で走ると、約25分で1周できる。

アウディTT RS アイコニック・エディション(英国仕様)
アウディTT RS アイコニック・エディション(英国仕様)

ちなみに、約60.6kmの市街地コースを走るツーリスト・トロフィーの平均速度は、約209km/h。その速度でワイト島のコースを走ったら、5分38秒で周回できる。

今回、小さな島へ持ち込んだアウディTTは高性能なRS。アイコニック・エディションという、モデルの最後を飾る世界限定100台の特別仕様だ。英国には11台が割り当てられているが、既に完売したという。

1998年にTTが発売された当初、コンセプトカーがそのまま量産されたかのように見えた。現行型は3代目となるが、当時ほどのインパクトはないかもしれない。

5気筒ターボのTT RSでも、最大のライバル、ポルシェ718ケイマンの動的能力にまでは迫れていない。だが、筆者にとってはさほど大きな事実ではない。むしろ、11種類のSUVを擁するアウディが、1台もスポーツカーを作らなくなるという事実が悲しい。

TT RSのステアリングホイールを握れば、運転が楽しいと心から思える。アイコニック・エディションが8万7650ポンド(約1411万円)もするとはいえ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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