ミニ誕生のキッカケを創出 モーリス・マイナー 1948年のゲームチェンジャー(5)

公開 : 2023.05.07 07:05

戦後の開放的な雰囲気のなか、ゲームチェンジャーといえる傑作モデルが誕生した1948年。その最たる6台を、英国編集部がご紹介します。

戦時中に開発へ着手したイシゴニス

75年前の英国人にとって、日常的なクルマといえたのがモーリス・マイナーだ。かといって、それは評価を下げるようなものではない。価格はお手頃だったが、遥かにモダンな設計やメカニズムが採用されていた。

この企画でご紹介する6台には、水冷式だけでなく空冷式のエンジンも含まれ、シャシーや駆動系のレイアウトも多様。進化の過程で起きるパッケージングの収束以前のモデルであることが、その理由の1つになるだろう。

モーリス・マイナー MM(1948〜1953年/英国仕様)
モーリス・マイナー MM(1948〜1953年/英国仕様)

そんななかで、現代の一般的なクルマに近い位置にあったのは、このマイナーだった。発表は1948年10月のロンドン・モーターショー。2ドアサルーンと2ドアコンバーチブルという、2種類の展開でスタートを切った。

エンジン以外の開発が始まったのは、戦時中の1943年。実質的には、非常に短い時間で設計が進められた。その指揮を取ったのは、技術者のアレック・イシゴニス氏。たった3名のチームで、コードネーム「モスキート」という新モデルに取り組んだ。

才気溢れるイシゴニスは、多くの新機能をモスキートに与えようとしたが、モーリスによって否定された。それでも、モノコック構造と独立懸架式のフロント・サスペンションには、彼の先見性の片鱗が現れている。

モノコック構造が生むソリッドさと洗練性

どちらも英国車として初採用ではなかったものの、市民の移動手段を前提とする安価な量産車としては目新しかった。1930年代といえば、フロントにもリジッドアクスルが多く採用されていた頃で、特に英国車はその構造へ依存するメーカーが多かった。

しかし、この2つの特徴を備えたマイナーは、結果的にモデルライフを伸ばした。時代を先取りしたクルマだったといっていい。

モーリス・マイナー MM(1948〜1953年/英国仕様)
モーリス・マイナー MM(1948〜1953年/英国仕様)

初期のモノコック構造らしく、剛性を確保するためグラスエリアは小さい。そのかわり、セパレートフレーム構造を持つ同時期のクラシックカーと乗り比べると、ソリッドさや洗練度の高さには驚かされる。

ステアリングラックも新しかった。この頃は、スポーツカーでも遊びが多いウォーム&ローラー式が珍しくなかったが、マイナーではラック&ピニオン式を採用。ダイレクトで情報豊かな操舵感を備えていた。

今回ご登場願ったのは、1950年式の初期型、マイナー MM。ステアリングホイールを握ってみると、反応に若干ためらうような重さが生じている様子。

「ラジアルタイヤを履いていた時は、こんな感じはありませんでした」。と説明するオーナーのローリー・グリフィス氏は、当時物のクロスプライ・タイヤが一因ではないかと考えている。

それでも、独立懸架式サスペンションのおかげで、狙ったラインをマイナーは正確にトレースする。路面の起伏を超えると、リジットアクスルのリア側は暴れるが、フロント側は落ち着きを失わない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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