メルセデス・ベンツSL 500へ挑んだ AC ブルックランズ・エース 英製GTロードスター 前編

公開 : 2023.07.09 07:05

グラマラスな容姿へ期待通りのエネルギー

フォード製V8スモールブロック・エンジンから不足ないパワーを引き出すことは、ミッチェルにとって朝飯前といえた。吸排気系に改良を加え、4942ccの排気量から、 263ps/5250rpmの最高出力と44.1kg-m/3250rpmの最大トルクを導いた。

トランスミッションは、ボルグワーナー社の5速マニュアルか4速オートマティック。リミテッドスリップ・デフが標準装備で、高速ツーリングに適した高めのギア比が設定されていた。

AC ブルックランズ・エース(1993〜1997年・1997〜2000年/英国仕様)
AC ブルックランズ・エース(1993〜1997年・1997〜2000年/英国仕様)

ダークグリーンのブルックランズ・エースを、一般道へ放つ。グラマラスなスタイリングへ期待通りのエネルギーを、V8エンジンは生み出す。やや重めのステアリングホイールや、ダイレクト感のあるペダルなどが滑らかに動き、想像以上に手懐けやすい。

発進時から明らかな熱意を感じる。アメリカンV8らしい唸りを轟かせながら、猛然とダッシュする。重くないボディを地平線まで吹き飛ばしそうなほど、加速は鋭い。

右足の力を緩めれば、レザーとスウェードで満たされた、柔らかなラインのインテリアに見合った走りを楽しめる。着座位置は低い。しかし、開発時間の短さは隠せない。

コーナリング時の負荷が高まると、ソフトなサスペンションは底づきしてしまう。リアアクスルは、耐えきれなくなるとスキップするように跳ねる。フロント側も、落ち着きが充分ではない。

それでも、衝撃は驚くほど抑えられている。幅が9インチ(約230mm)もあるサイドシルを備えた、高剛性なステンレス製モノコック構造のおかげだろう。

天才技術者による新たなモデル群の1つ

快適さを保てる領域にある限り、ブルックランズは上級グランドツーリング・ロードスターらしい、特別な印象をドライバーへ提供してくれる。部分的に洗練性が不充分で、アストン マーティンよりTVRの方へ近いが。

シャシーバランスは優れ、特性はマイルド。ディフレクターなしでルーフを開いても、車内は乱気流に悩まされない。技術的な水準は低くなく、小さな弱点を忘れさせてくれる。

ダークブルーのメルセデス・ベンツ500 SLと、ダークグリーンのAC ブルックランズ・エース
ダークブルーのメルセデス・ベンツ500 SLと、ダークグリーンのAC ブルックランズ・エース

R129型の500 SLへ乗り換えると、着座位置が高く感じられる。複雑な技術が盛り込まれ、必要とされたドライビングポジションだといえる。製造品質は明確に高く、デザインは端正で、登場から30年以上を経ても訴求力を否定することはできない。

メルセデス・ベンツの伝統に則り、取締役会の役員でもあった技術者の主導で、綿密に設計されている。投じられた開発期間は10年で、スタイリングのアイデアは20種。最終的にヨハン・トムフォード氏のスケッチが採用され、118台の試作車が作られた。

お披露目は、1989年のスイス・ジュネーブ・モーターショー。電動でスムーズに開閉するソフトトップが、来場者の目を釘付けにした。横転時に自動的に立ち上がるロールバーを備え、開発費の潤沢さを知らしめた。

設計を率いたのは、1981年のW201型190クラスと、1986年のW124型ミディアム・クラスを生み出した、ヴォルフガング・ピーター氏とヴェルナー・ブライトシュベルト氏。R129型は天才と呼べる彼らによる、新たなモデル群の1つといえた。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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