シボレー・コルベット 詳細データテスト 圧倒的エンジン 多面的シャシー もう少し軽ければなおよし

公開 : 2023.08.26 20:25  更新 : 2023.10.24 18:07

走り ★★★★★★★★★☆

コルベットとくれば、おなじみスモールブロックV8の甘美な唸りを期待せずにはいられないだろう。ところが、Z06の新型エンジンは異なる作法で迎えてくれる。

アイドリングは典型的なアメリカンV8の情熱的なサウンドではなく、キビキビとしたスムースな、しかし音色的にはフラットプレーンクランクのV8に当てはまるようなもの。そこからスロットルペダルを軽く踏み込むと、鞭のように鋭いレスポンスで、歯切れよく、熱心に回りたがるのがわかる。それだけで、LT6の存在が正当化される。

速さは911GT3を凌ぐ。V8エンジンの魅力は心を捉えて放さない。走行モードはもう少し細かく調整したいが、そんな不満は些細なものだ。
速さは911GT3を凌ぐ。V8エンジンの魅力は心を捉えて放さない。走行モードはもう少し細かく調整したいが、そんな不満は些細なものだ。    JACK HARRISON

中間ギアに固定して低回転から引っ張ると、4000rpm以下では劇的なことはほぼ起こらない。しかし、そこを超えると、Z06のノイズと力強さが盛り上がりはじめる。

パワーデリバリーは、じつにリニアでプログレッシブ。思い切り飛ばせるコースで、6000rpm以上回せるのであれば、このV8は突如として違った一面を見せる。ホンダのVTECほどではないが、かなり独特の変貌ぶりで勢いを増す。これは、中間加速データを見れば想像できるだろう。

切り替わるまでは、巨大な宇宙規模のトロンボーンかなにかをイメージさせるエンジン音だが、レッドラインの8600rpmに至る残り2500rpmほどは、マラネロやヴァイザッハも顔負けの、金属的で沸き立つような叫びを解き放つ。それに伴い、猛烈な速さもだ。

速さだけでZ06の成否を判断するなら、確かな進歩を果たしたと言える。ローンチコントロールはタイヤの温まり具合と、路面のグリップ具合にやや依存する。だが、それらを考慮しても、0−97km/hが3.1秒、0-161km/hが6.8秒、ゼロヨンが11.2秒というのはかなりのパフォーマンス。PDKを積む911GT3でも及ばない加速性能なのだ。

ただし、過給機やハイブリッドアシスト、もしくはその両方を備えるライバルは、残念ながら負かせなかった。911ターボSやマクラーレン720Sフェラーリ296GTBには多少ながら敵わない。

普通に走らせると、走行モードの幅広さが問題の種となる。個別設定できるカスタムモードもあるが、サスペンションやステアリング、パワートレイン細かく調整して走りをを本当に好みどおりにすることができない。そこで、セッティングを頻繁に変えることを余儀なくされる。もっとも、集中は妨げられるのだが、うんざりするほどではない。

カーボンブレーキは、ハードに使えばスキール音が出るが、食いつきも効き具合も扱いやすい。DCTのシフトはたいてい、期待どおりに速くポジティブ。しかしやはり最後の決め手はV8だ。力強く、よく回り、カミソリのようにシャープで、機会的な魅力に満ち、心を捉えて放さない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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