ボルボの雪上テスト現場へ潜入! EX30でエルク避けを体験 ソフト開発での重要性も増す

公開 : 2024.04.26 19:05

トラクション・コントロールを磨くエルクテスト

スウェーデンでは、車両がヘラジカやトナカイ、イノシシなどと衝突する事故が、年間6万件以上も発生しているという。交差点から急に侵入してきたクルマにも、同じ回避操作は適用できる。

このエルクテストは、10x18mと10x36mのスラロームを使用することと、国際標準化機構(ISO)によって条件が決められている。障害物を避けるため、クルマを隣車線へ迅速に移動し、その後再び素早く元の車線へ戻すといった運転をすることになる。

ボルボEX30(欧州仕様)
ボルボEX30(欧州仕様)

歴史は古く、1970年代から実施されているそうだ。スウェーデンのテレビ番組が、初代メルセデス・ベンツAクラスを横転させてしまったことで、ご存じの読者も多いかもしれない。

それでは2024年最新のボルボは、というと、筆者の運転では期待ほどさっそうと障害物を回避できなかった。グネグネと蛇行したが、少なくとも避けることはできた。

ボルボで運転体験に関する部門を率いる、ジョン・ランデグレン氏へ質問してみる。「クルマは急速に変化しているので、エルクテストを継続する意味はあります。スタビリティ・コントロールは、特にこの20年間で大きく変化したといえます」

「初期のシステムは原始的なものでした。現在はブレーキとトルクだけでなく、多くのコンポーネントの情報も組み合わせて動作します。年々複雑になっているので、高いレベルでのテストを継続する必要があるんです」

寒冷条件で性能が悪化する駆動用バッテリー

バッテリーEVへのシフトという、大転換も進んでいる。AUTOCARの読者なら、車重は内燃エンジン車より重く、気温が低いと航続距離が短くなることはご存知だろう。

特に急激な温度変化は、駆動用バッテリーに良くない影響を与える。電気を帯びたリチウムイオンは、気温が低いほど動きが鈍くなる。そのため、バッテリーの性能が大きく低下してしまうのだ。

雪上テストについて説明する、ボルボのミカエル・リュング・オースト氏(右)と、筆者、マレー・スカリオン(左)
雪上テストについて説明する、ボルボのミカエル・リュング・オースト氏(右)と、筆者、マレー・スカリオン(左)

XC40を例にすると、AUTOCARの姉妹メディアの調査では、好条件の時と比べて、寒冷条件では29.9%も航続距離が短くなることが確認された。ノルウェーの自動車連盟も、同様の試験結果を発表している。

しかし多くの自動車メーカーは、寒い環境での性能変化に対する情報を公にしていない。ボルボも同様で、広報担当社は「寒冷地でのパフォーマンスに関してはコメントできません」としている。

取材を終えて、ルーレオーの空港へEX30で向かう。車両の後ろには、パワーテールゲートを開く小さなボタンが付いている。寒すぎて、ボタンは薄い氷の膜で覆われていたが、指で強く押して氷を割るとしっかり機能した。

冬季テストの結果は、こんなボタン1つにも反映されている。結果を測定できる内容がある一方で、経験的に判断される領域もある。いずれにしても、極限的な条件で、すべてが正常に動くことが求められることは事実。彼らの探求は、まだまだ続くだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マレー・スカリオン

    Murray Scullion

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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