「感性」で買うスーパーカー マセラティMC20 長期テスト(1) 心を鷲掴みにする優美な容姿

公開 : 2024.10.12 09:45

現代のマセラティを象徴するスーパーカー、MC20 フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンの競合との位置関係は? 数字競争から一歩引いた姿勢が生む個性とは 英編集部が魅力を深掘り

スーパーカー界におけるMC20のポジション

マセラティMC20のオーナーズマニュアルをめくっていると、「クルマを理解する」という項目が15ページ目から始まる。約20年ぶりにこのブランドが生み出したスーパーカーの、複雑なメカニズムを学ぶことができる。

1950年代のレーシングカー、マセラティ250Fに影響を受けたという色っぽいフロントノーズを保護する、ノーズリフト機能の使い方はわかりやすい。10km/hを過ぎた辺りで聞こえる、カチッという小さな音は、ABSの自己診断に伴うものらしい。

マセラティMC20(英国仕様)
マセラティMC20(英国仕様)

カップホルダーの安全な使い方まで、説明されている。マセラティのトリセツでは共通することだが、とても興味深い読み物だと思う。

MC20が、2024年のスーパーカー界でどのようなポジションにあるのか。それを理解することは、分厚いマニュアルを読破しただけでは把握できない、ややこしい問題といえる。それが、今回AUTOCARの長期テストへ加わることになった理由だ。

富裕層も少なくないロンドンでは、フェラーリランボルギーニと頻繁に出会う。ところが、トライデントのロゴを掲げた美しいMC20は、発売から3年が経過するものの、筆者は1度しか目撃していない。

それは、別の自動車媒体のスタッフが飛ばす、広報用車両だった。英国の登録台数を調べると、フェラーリ296 GTBは277台が2023年に売れている。しかしMC20は、その5%にも満たないようだ。

スペック上の数字競争から一歩引いた姿勢

恐らく、MC20を購入できる恵まれた人々は、このマセラティを深くは理解していないのだろう。スペック上の数字競争から一歩引いた姿勢が、大きく影響しているように思う。そしてこの事実が、自分をこのスーパーカーへ強く惹き付ける。

一般的に、過度な馬力や最高速は、現実世界では期待ほど役に立たないことが多い。それを追求しなかったのは、プロダクトに対する自信の表れといえるだろう。

マセラティMC20(英国仕様)
マセラティMC20(英国仕様)

とはいえ、ミドシップの娯楽アイテムへ22万ポンド(約4224万円)以上も費やせる人にとって、数字は重要な指標になる。同郷のライバルより最高出力が200ps近く低いことは、見逃せない弱点になり得る。

296 GTBのように、鋭敏なアクセルレスポンスを叶えハイテク感を演出する、ハイブリッド技術が盛り込まれているわけでもない。MC20はカーボンモノコック・シャシーを採用するが、マクラーレン750 Sより車重は軽くない。エンジンは2気筒少ないのに。

最新のランボルギーニ・テメラリオは、V8エンジンのハイブリッドで、最高出力は920psがうたわれる。多くの要点を満たし、富裕層を誘惑するはず。電動化へのシフトが進む中で、過去にないほどスーパーカーの競争は熱気を帯びている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

長期テスト マセラティMC20の前後関係

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