「HYUNDAI」←どう読むかってそんなに重要? 肝心なことを忘れないで 英国記者の視点
公開 : 2025.01.27 18:05
ヒョンデUKは英国のテレビ広告で、社名の「正しい発音」について説明している。でも、それって本当に重要なのだろうか? AUTOCAR英国編集部の記者は疑問を投げかける。
名前よりもクルマを売れ
スポーツ用品ブランドの名前の正しい発音を確認するために、英国の学生2人が当時のNike社のCEO、フィリップ・ナイト氏に直接手紙を書いた。
ナイト氏とビル・バウワーマン氏が1964年にブルー・リボン・スポーツ社を設立し、1971年にギリシャの勝利の神にちなんで「Nike」と改名。それから43年後の2014年、学生たちはナイト氏に切手を貼って宛名も記した返信用封筒を添えて手紙を送った。

その手紙には2つの段落しか書かれておらず、Nike社の社名の正しい発音を「Nike(ナイキ)」か「Ni-ke(ニケ)」のどちらかを選んで丸で囲むよう依頼する内容だった。当時、彼らは返事を期待していなかったというが、数週間後に手紙が返ってきた。ナイト氏は「Ni-ke」に丸を付けていた。
筆者が知る限り、Nike社が発音ゲームに巻き込まれたのはこの1回だけだ。さまざまなウェブサイトやNikeのホームページでヒントや公式声明を検索しても、何も出てこない。
要するに、世界で最も認知度の高いブランドの1つであり、年間500億ドルの収益を上げ、8万人を雇用する企業でも、一部の国や地域で自社の名前が正しく発音されないことを心配する必要がないということだ。
そこで、読者諸氏。「Hyundai」はどうだろうか。英国ではその正しい発音方法をアドバイスする広告が流れている。テレビを観ていればよく目にするだろう。
英国ではHyundaiのことを「High-oond-aye(ハイ・ウンド・アイ)」というように呼ぶのが一般的だが、本当は「He-oon-day(ヒュン・デイ)」なのだ、と広告は言う。
Hyundaiは、世界中で正しく呼んでほしいと述べている。しかし、米国に行けば、通常「y」をまったく発音に含まず、「Hunday(ハンデイ)」となる。Nikeのように、誰も気にしていないようだ。
英国ではそうではない。広告ではメガネを鼻に押し上げ、「 “英” 語では……」などと訂正を始めるが、肝心なクルマについてほとんど何も語らない。
ジャガーのような広告を打ち出し、実際に商品を販売しようとするよりも、自社の存在をアピールするとは、なんて贅沢なことだろう。
Hyundaiはなぜこのようなことをするのか? なぜHyundaiは、自社の名前の正しい発音を気にするのか? なぜHyundaiは、我々が “そんなこと” を気にかけているなどと思うのか?
英国の自動車専門誌に務める筆者は、社名を正しく発音することが期待されている。なぜなら、それが筆者の仕事の一部だからだ。しかし、一般消費者に関しては、マーク・リットソン氏が『マーケティング・ウィーク』誌に書いたように、「ブランドが顧客の生活においてまったく重要でないことを理解することが、より良いブランド管理の第一歩である」。
広告代理店DDBのサラ・カーター氏は、さらに率直に表現したことがある。「マーケターは、自分のデスクに『消費者はどうでもいいと思っている。ブランドや広告に対する人々の無関心が原点である』と書いた付箋を貼っておきなさい」と彼女は述べた。
支払うべき請求書がある。片付けるべき仕事がある。迎えに行くべき子供がいる。世話をすべき両親がいる。楽しむべきことがある。料理すべき食べ物がある。行くべき場所がある。治すべき病気がある。我々は生活しているのだ。顔のない企業の名前をどう発音するかについて、どれほどの価値を置いていると思うだろうか? 明日には期限切れになる牛乳があるのだ。
筆者がどれほど気にかけているかというと、牛乳よりもずっとずっと下だ。実際、国が違えば発音も異なる。それが人の名前であれば、正しく発音するよう努めるべきだと感じる。ブランド名であれば、肩をすくめるしかない。
それに、複雑なのだ。英語読みの「ポーシェ」とドイツ語読みの「ポルシェ」、「スコダ」と「シュコダ」、「アイキア」と「イケア」など、事例は山ほどある。企業だけでなく、スポーツチームや地名に関しても同じだ。これらをどう発音するかについては、その正しい発音を知っているかどうかや、どっちが賢そうに聞こえるかにもかかっている。
Nike社は、決まり文句や時には歌詞にもあるように、「どう呼ばれようと、呼んでくれさえすればいい」と考えているようだ。
その通りだ。筆者は好きなように呼ぶ。クルマを売ってくれ。