V12は幻の「XJ13」由来 ジャガーXJ-S 21年作られた大猫(1) 製造品質が乱した所有体験
公開 : 2025.02.09 17:45
マルコム・セイヤーが描いた大猫、XJ-S 特別なライフスタイルを想起 V12エンジンは幻のXJ13由来 不具合や製造品質が乱した所有体験 カブリオレやステーションワゴンも 英編集部が振り返る
マルコム・セイヤーが描いたバットレス
ロー&ワイドなXJ-Sは、半世紀前のジャガーを象徴するモデル。300馬力のV型12気筒エンジンをフロントに積んだグランドツアラーは、アメリカ大陸の横断旅行や、リビエラでのバカンス、クライアントとの急な打ち合わせにも、見事に対応したはず。
英国のパンフレットには、フランス南岸で撮影された美しい写真が積極的に使われた。これまでにない、魅力的な暮らしを想起させるのに充分だった。特別な人生の入り口が、用意されているかのように。

スタイリングは、天才的デザイナーのマルコム・セイヤー氏。ジャガーEタイプの後継モデルとして1966年に検討はスタートし、1968年のプロトタイプでは、フロントエンジンの2+2クーペという大枠が仕上がっていた。
主要市場のアメリカでの安全規制強化に伴い、販売できない可能性を踏まえ、コンバーチブルは当初想定されなかった。実際は、禁止されなかったが。
アストン マーティンやメルセデス・ベンツはひと足先に、競合するグランドツアラーの開発へ取り組んでいた。しかしジャガーには、1968年に発売され高い評価を得ていたサルーン、XJ6という、優れたベースが完成していた。
ボディサイズは、自ずとEタイプより大きくなった。太いリアピラーによるバットレスは、後にトレードマークとなったが、否定的に受け止める人もいた。240km/h以上での走行が目指され、この処理は気流を整えるうえで不可欠だった。
ところが、セイヤーは1970年に急逝。量産仕様の目撃は叶っていない。
幻のXJ13由来のV型12気筒エンジン
セイヤーの後を継いだのは、ダグ・ソープ氏率いる社内のデザインチーム。シルエットは維持しつつ、当初の案へ多くの変更が加えられた。ヘッドライトは片側2灯から細長い1灯へ置き換えられ、フロントグリルはスリムに。テールライトは大型化された。
ソープが納得していなかったバットレス部分には、ブラックに塗られたエアベントを追加。存在感を和らげる効果があった。

他方、パワートレインに妥協はなかった。ジャガー初となるV12エンジンの起源は、1950年代に遡る。技術者のクロード・ベイリー氏が手掛けた、4994ccのDOHCユニットだ。レーシングカーのXJ13へ載る計画だったが、1台の試作で終わっていた。
それをもとに、技術者のウォルター・ハッサン氏とハリー・マンディ氏が改良。SOHC化しつつ、排気量は5343ccへ増やされ、量産ユニットに仕上げられた。市販モデルへの搭載は、1971年のEタイプ・シリーズ3から始まった。
XJ-Sの発売は1975年。ルーカス・ボッシュ社製のインジェクションが組まれ、最高出力は289ps、最大トルクは40.5kg-mを得た。ボルグワーナー社製の3速ATか、ジャガー独自の4速MTが組まれ、リミテッドスリップ・デフを介して後輪が駆動された。
そんなXJ-Sの誕生から半世紀。今回は、特徴的な5台を揃えてみた。特にオリジナル度の高い1台が、スクワッドロン・ブルーに塗られた、1977年式のシリーズ1 クーペだ。オーナーはマイケル・クイン氏で、走行距離は5万4000kmと驚くほど浅い。
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