WECは忘れろ 『スーパー耐久シリーズ』の方が断然面白い 英国記者の視点

公開 : 2025.04.17 18:45

日本で毎年開催されるスーパー耐久シリーズは、バラエティに富んだクルマが参加する、非常に見応えのあるレースとなっています。WECよりも親しみやすく楽しめるかも? AUTOCAR英国記者のコラムです。

バラエティに富んだ車両が参戦

耐久レースと言えば、特注のハイパーカーと世界屈指のスポーツカーが肩を並べる世界耐久選手権(WEC)を思い浮かべる人も多いだろう。

WECは素晴らしいレースではあるが、参戦車両のコストや技術の複雑さをふまえると、2~3年も見続けていれば少し飽きてしまうかもしれない。

スーパー耐久シリーズには多種多様なチーム、車両、ドライバーが参加する。(写真は2023年)
スーパー耐久シリーズには多種多様なチーム、車両、ドライバーが参加する。(写真は2023年)    スーパー耐久シリーズ

ポルシェトヨタフェラーリのどこかが総合優勝することはほぼ間違いないし、GT3クラスはポルシェ(またか)とBMWの一騎打ちになるだろう。

さらに、パドック周辺で繰り広げられるプロフェッショナリズムはフォーミュラ1(F1)に匹敵、あるいは上回るかもしれない。そのあたりが、レース全体を少し冷たく感じさせることもある。

その解毒剤となるのが、日本で開催されるプロ・アマ共闘の選手権、スーパー耐久シリーズだ。

なんと8つのクラスがあり、一度に56台ものクルマがコースを走る(2024年)。一般的なホンダフィットからトヨタGRヤリス、メルセデスAMG GT3まで、さまざまな車種が参加している。

また、カルト的人気を誇る名車もちらほら見かける。筆者のお気に入りは、ST-2クラスでGRやタイプRと競い合う2台の三菱ランサー・エボリューションXだ。

グリッドの先頭と最後尾のペースの差は、マシンの性能とドライバーの腕前によって大きく開くので、退屈な瞬間は決してない。

例えば、ホンダ・シビックがフィットを追い抜こうとしているところをポルシェ・ケイマンが追い抜き、さらにそれを日産GT-Rが追い抜く、というような光景も珍しくない。同じコーナーでこのようなことが起こるのだ。うまくいくことも多いが、大波乱が起きることもある。

しかし、スーパー耐久シリーズの真の面白さは、そのラインナップの斬新さだけではない。ST-Qクラスでは、さまざまなメーカーが最新の実験車両を投入するなど、意外な技術的ホットスポットにもなっている。

現在注目されているのは、持続可能燃料である。水素燃焼のトヨタGRカローラ、バイオディーゼル燃料のマツダ3およびマツダロードスター、そしてトヨタGR86、スバルWRX、ホンダ・シビック・タイプRなどはカーボンニュートラル燃料を使用している。

ST-Qクラスで走る車両にはポイントは与えられないが、各々の新技術を極限まで試すことに重点が置かれており、それでいて友好的な競争も繰り広げられる。

トヨタの豊田章男会長がGRカローラのハンドルを握るなど、著名人の参加も目立つ。

レースカレンダーも、こうした新技術が適切にテストされるように組まれている。昨年はスポーツランドSUGOでの4時間のシーズン開幕戦に続き、富士スピードウェイでの24時間レース、そしてオートポリスでの5時間レースが行われた。

わずか7戦のシーズンだが、メーカーははるかに高額なWECに参戦するのと同じくらい、多くのことを学べるだろう。

何よりも、筆者がスーパー耐久シリーズで惹かれるのは、公道や市販車との親和性の高さだ。

このレースは、世界で最も熱狂的なファンや選手たちとともに楽しむことができるだけでなく、内燃機関を少しでも長く存続させることにも役立っている。筆者はそのことに感謝している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    役職:編集アシスタント
    2022年よりAUTOCARに加わり、ニュースデスクの一員として、新車発表や業界イベントの報道において重要な役割を担っている。印刷版やオンライン版の記事を執筆し、暇さえあればフィアット・パンダ100HP の故障について愚痴をこぼしている。産業界や社会問題に関するテーマを得意とする。これまで運転した中で最高のクルマはアルピーヌ A110 GTだが、自分には手が出せない価格であることが唯一の不満。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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