【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#3夢と冒険の不人気車
公開 : 2025.04.04 12:05
自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。第3回は『夢と冒険の不人気車』を語ります。
「安いのには必ず理由があり、高いのには必ずしも理由はない」
先代マセラティ・クアトロポルテは、総額99万円から売られている。安い理由は、「シングルクラッチATのデュオセレクトが徹底的に嫌われているから」(マイクロ・デポ岡本代表)であるという。
確かに後期型のオートマチックになると、平均400万円以上に跳ね上がる。トルコンATならシフトショックも少ないし、クラッチ交換もない。断然安心だろう。しかし私は、99万円で買えるデュオセレクトのほうに、男のロマンを感じる。

ただし99万円ではなく、「200万円くらいで探してください!」とお願いした。
それはまぁ、礼儀のようなものでしょうか。さすがに中古マセラティの名店に、「99万円で探してください!」とは言えないじゃないですか。そんなカス拾いみたいなこと。
加えて私は、これまでの中古フェラーリ購入の経験から、ひとつの鉄則を学んだ。「安いのには必ず理由があり、高いのには必ずしも理由はない」という。
中間を狙って「200万円くらいで!」
安い中古フェラーリには、必ずマイナス要因があった。たとえば平均相場が1000万円のモデルで、600万円の激安車があったとしよう。そのクルマは、ちゃんと整備すると400万円くらいかかる(たぶん)。だから600万円なのである。
最近は、そんなボロカスの中古フェラーリにはお目にかかれないが、それは全体相場が急騰して、お金をかけて整備しても、それ以上に高く売れるようになったからだ。

その点、先代クアトロポルテ(のデュオセレクト)は違う。徹底的に人気がないので、お金をかけたって高く売れない。だからボロが発生する。ボロの極限のボロカスが99万円。それをちゃんと整備するには、たぶん200万円くらい必要で、結局300万円くらいになる。なら、最初から300万円の上ダマを狙ったほうがラクチンだけど、それじゃロマンがない。
だから私はその中間線を狙って、「200万円くらいで!」とお願いしたのだ。無謀な自爆は避けつつ、適度なリスクを負って健康的なロマンを満喫する。これぞ男の深慮遠謀である。
ガンディーニ・デザインの先々代は人気
そもそも「探してください!」と頼んだのは、マイクロ・デポの在庫車に、先代クアトロポルテがなかったからだ。中古マセラティの名店では、先代は徹底的に人気がないらしい。逆にガンディーニ・デザインの先々代(4代目)は人気で、先代よりずっと相場も高い。不人気車って夢と冒険!
数日後。岡本代表から早速「こんなのがありましたけど」連絡が入った。それは、とある倉庫に眠っていた納屋物件。なかなかの上ダマだという。

ただ、デュオセレクトのクラッチがない。アキレス腱が取り外されたまま放置され、不動状態だという。さすが不人気車。
オレ「それ、乗り出しでいくらくらいになりそうです?」
岡本代表「うーん、クラッチが付いてないので、付けると100万かかりますから、300にはなっちゃいますね」
300万円。先代クアトロポルテ(のデュオセレクト)としてはほぼ天井価格だ。アキレス腱が新品じゃリスクも小さすぎる。
そもそも私は、デュオセレクトが死ぬ瞬間を体験したいと思っている。別に破滅願望というわけではないのですが、カーマニア的に正しく乗って戦い抜き、最後に轟沈して涙を流したいのだ。そこから修理して復活させ、歓喜に咽びたい。変態でしょうか?
とにかく300万円はダメ! 200万円くらいじゃないと!
オレ「適度に壊れそうな200万円でお願いします!」
岡本代表「それが一番ムズカシーんだよなぁ(爆笑)」
そりゃそうだよね……。
(つづく/毎週金曜日昼頃公開予定)
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