【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#4 命名・大貴族号!

公開 : 2025.04.11 12:05  更新 : 2025.04.11 16:29

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。第4回は『命名・大貴族号』を語ります。

「なにしろ徹底的に嫌われてますから」

中古マセラティ専門店『マイクロ・デポ』のタコちゃん(岡本和久代表)に、「200万円くらいで先代クアトロポルテ(デュオセレクト)を探してください!」と依頼してから約2ヵ月。その後連絡が途絶えていた。

たぶん、探すのがめんどくさくなったのだろう。このままでは忘れられる。そう思って、久しぶりに連絡を取ってみた。

先代マセラティ・クアトロポルテはフェラーリ製のV8エンジンを搭載。
先代マセラティ・クアトロポルテはフェラーリ製のV8エンジンを搭載。    マセラティ

タコちゃん「関係各位に話を振っておりますが、みいぃ~んな部品取りにしちゃってまして、コレといったタマが見つかっておりません!」

オレ「えっ!? 部品取りになっちゃうんですか」

タコちゃん「なにしろ徹底的に嫌われてますから(笑)、バラして部品で売ったほうがまだマシなんですウヒャヒャヒャヒャ!!」

ガアァァァ~~ン!! 聞きしにまさる不人気ぶり! フェラーリ・エンジン積んでるのに! デザインだって最高なのに! この人気のなさと中身の高貴さのアンバランスは、凄まじいほどロマンだ!! ますます欲しい!

タコちゃん「業者向けオークションも見てますから、そういった情報も差し上げるようにします」

「コレでしたら、車両本体200万円で行けます」

そう言ったそばから、1台の情報を送ってくれた。

タコちゃん「例えばコレでしたら、車両本体200万円で行けます」

先代クアトロポルテは、デビュー後にエグゼクティブGTとスポーツGTを追加した。
先代クアトロポルテは、デビュー後にエグゼクティブGTとスポーツGTを追加した。    マセラティ

それは、外装白、内装ボルドーの『スポーツGT』(デュオセレクト)だった。2007年式で走行距離は6万キロである。

こんなにソッコーで見つかるなんて、やっぱりオレのことなんか忘れていたのだろう。せっつかれてオークション情報を見て、「あ、あるじゃん」って感じで送ってくれたのだろう。でも、条件的にはピッタリに近い。

オレ「白のクアトロポルテなんて貴族的ですねー」

タコちゃん「でも、中身は開けてみないとわかりませんよ。オークションですから」

聞けば、デュオセレクトのクラッチの寿命は、概ね2万キロから3万キロ。6万キロということは、「そろそろクラッチがヤバいから売っちゃおう」ということかもしれない。いや、その可能性が極めて高い。ほぼ確実と言ってもいいだろう。

しかしまぁ、それもひとつのロマン。素性のはっきりした良質なタマを選んでいたら、夢や冒険にならないぜ!

私はちょっとだけ(2分間くらい)考えた後、タコちゃんに伝えた。

オレ「それで行ってください」

ロマンは選んではいけない。ゴビ砂漠の砂嵐のように、向こうからやってくるものなのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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