【現役デザイナーの眼:新型日産リーフ】クーペライクなクロスオーバーは先進感ありも、気になるニッチな方向性

公開 : 2025.06.20 11:45

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が今回取り上げるのは、先日ワールドプレミアされた3代目日産リーフ。クーペライクなクロスオーバースタイルは、空力を追求し一体感のある造形と認めつつも、その方向性が気になるようです。

タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム

ハッチバックだった初代、2代目と違いクロスオーバーになった新型は、先代より大幅に短くなったフロントオーバーハングのおかげで、EVらしい先進感あるプロポーションになりました。

同じ日産のEV、『アリア』の弟分的な印象がありますが、各部の比率や仕立ては、アリアより親しみやすいデザインになっていると思います。

日産アリア(下)とサイドビューを比較すると大変近い印象だが、ルーフスポイラーの有無によりリーフ(上)はクーペライクな印象になっている。
日産アリア(下)とサイドビューを比較すると大変近い印象だが、ルーフスポイラーの有無によりリーフ(上)はクーペライクな印象になっている。    日産自動車

初代リーフが発売された頃、将来カーデザインはEV化によりプロポーションの自由度が増し、劇的に変化するとデザイナー界隈で期待されていました。

しかし、最新EVのほとんどは常識的なクルマの形をしていますよね。それは100年以上あるクルマの歴史の中で、普遍的な『様式』が作られたからだと思います。例えば高級車ならボンネットが長い、という感じで。

メルセデスはEQSなどで、伝統的高級車からプロポーションを大幅に変えてチャレンジしていますが、多くのユーザーに受け入れられたとは言えません。それほどデザインの根本を劇的に変える事は難しいと感じます。

ですが、2020年に発表されたアリアはEVらしいノーズの短さでありながら、高級クロスオーバーSUVとしての普遍性もあり、先進性とのバランスが整った大変素晴らしいデザインだと思っています。

そのアリアは、『タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム』という、日産の新しいデザイン言語で開発されました。デザイン言語というと何やら難しいものに聞こえますが、要は各メーカーにおける『ルール』です。日産のルールは、日本ならではの考え方や意匠を取り入れるという事でしょう。

そういえば、アリアは大胆な立体構成ながら、それをことさら主張しないデザインが絶妙で、このあたりが日本的なミニマリズムとも言えそうです。新型リーフも、このルールを踏襲したデザインになっているのですが、さらに発展させ『デジタルな時代にマッチしたデザインとして体現している』としています。

空力を第一に考えたエクステリアデザイン

大径タイヤと力強いロアボディに、流れるようなルーフラインの組み合わせは、クーペとSUVのクロスオーバーという印象があります。

一見すると先代より大きくなったように思いますが、実は全長は120mmも短く(新型4360mmなのに対し先代4480mm)、全高はほぼ同じ。全幅のみ20mmほど拡大されていますが、モデルチェンジにより『小さくなった』と言えるでしょう。

フロントからリアドア中央までの立体と、その後ろとの嵌合による立体構成は明快だが、それをことさら主張しないのが日産流。
フロントからリアドア中央までの立体と、その後ろとの嵌合による立体構成は明快だが、それをことさら主張しないのが日産流。    日産自動車

基本的な立体構成や各部の処理はアリアを彷彿とさせますが、より空力を重視したものになっています。

例えば、両車同じような弧を描くルーフラインですが、アリアではルーフスポイラーが付いているのに対し、リーフではそこにスポイラーは無く、なだらかにリアゲートガラスへ繋がって、まるでクーペのようなシルエットになっています。

また、リアコンビ上がダックテール的な形状になっており、これらは空力を考えたものでしょう。

ポルシェの新型マカンでも同じようにルーフスポイラーは無く、リアコンビ上に可変スポイラーが付く仕様になっていますが、空力を最大限考慮するのがEVデザインのトレンドです。出来るだけ空気抵抗を無くし、航続距離をアップさせようとする狙いがあります。

フロント周りは、ほとんど段差のない、非常に一体感のある造形になっています。これも空力の追求だと思います。

リアも基本的にシームレスな造形なのですが、気になる点とすれば、バンパーサイド下端の黒色部が思いのほか飛び出しており、プロポーションに影響が出ています。本来はもっと削るところですが、ここもおそらく空力を優先したポイントでしょう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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