【現役デザイナーの眼:トヨタRAV4】ハンマーヘッドの呪縛?腑に落ちないフロント周り

公開 : 2025.06.04 11:45

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が今回取り上げるのは、先頃6代目にモデルチェンジしたトヨタRAV4。先代の魅力を踏襲しつつも少し変わった方向性と、近年トヨタ・デザインの特徴である『ハンマーヘッド』を深堀りします。

明快さは薄れたが、上質感とアクティブさを両立させたサイドデザイン

トヨタRAV4と言えば、私がインハウスのカーデザイナーだった際、常にベンチマークとして参考にしてきたクルマです。特に先代の5代目は、ラギッドでスポーティなデザインを、明快な立体構成で表現していて魅力的でした。その結果、価値がユーザーにしっかり伝わり、世界的に大好評だったのですが、今回6代目にモデルチェンジして、先代の良いところを踏襲しつつも少し方向性が変わったようです。

開発コンセプトは『Life is an Adventure』という事で、「だれもがこのクルマでそれぞれのアクティブな生活を楽しんでいだだけることを目指しています」とあります。

一見して先代よりリアゲートが立ったシルエット。ボディがリアフェンダー前で分かれているので、路上だと先代より少し短いクルマに見えるかもしれない。
一見して先代よりリアゲートが立ったシルエット。ボディがリアフェンダー前で分かれているので、路上だと先代より少し短いクルマに見えるかもしれない。    トヨタ

このコンセプトを聞く限り、先代のラギッドでスポーティなデザインから、アクティブな印象は維持しながらも、もう少しユーザーの裾野が広がるようなデザインを目指したのだと感じました。

メインの立体構成は、先代と同じように、前後のボリュームを嵌合(かんごう)させた表現の延長上なのだと思いますが、見たところわりと普通のドアプラン(上面から見たドア面のカーブ)をリアドア中央付近で削り、その上にリアフェンダーのボリュームを付けたようなデザインになっています。

凝ってはいるのですが、先代のプランでの動きが大胆で明快なデザインだったため、それと比べると、ひとつスケールが小さい手法のように感じます。

ただ、フロントから比較的水平に通ったショルダー部が上質感を出しつつ、同時にボディ下部の大胆な動きのおかげでアクティブな印象もあり、この辺りは狙い通り両立出来ているのではないかと思います。

また、先代に比べてリアゲートガラスやDピラーがだいぶ立っています。これは市場要望による荷室容積の増加が要因だと思いますが、これにより、明らかにスポーティだった先代のシルエットに比べて落ち着いた印象になりました。

しかし、それ以外のシルエットは先代とほぼ同じように見えます。Aピラーの位置や傾き、ボンネットの高さなどもほとんど同じなのではないでしょうか。

その結果、どこか先代の面影も残るデザインだと感じました。

リア周りやインテリアデザインの秀逸さと、フロントへの疑問

リアフェンダーから後ろは、しっかりとした塊感があり、また、スタンスも良いデザインになっています。各部の面取りが効果的で、さらにバンパーコーナー下部が先代のように切れ上がっているので、SUVらしいリフトアップされた印象がありますし、リアゲートガラスとリアコンビはシームレスに繋がっているので、全体的にひとつの塊として強さも出ています。

インテリアも、先代と比べて明確に進化していると感じました。

リア周りは、張り出したフェンダーからリアゲートまでの塊を面取りで削ったようなデザイン。広報写真はどれも面取りがくどいが、実車はもっと一体感ある印象だった。
リア周りは、張り出したフェンダーからリアゲートまでの塊を面取りで削ったようなデザイン。広報写真はどれも面取りがくどいが、実車はもっと一体感ある印象だった。    トヨタ

トレンドである横基調のインパネですが、ラギッドな雰囲気出しが上手く、さらに、ひっくり返すとトレーになるセンターアームレストなど、機能的な面も充実したデザインは秀逸。

トヨタのインテリアは、一昔前はややくどい印象がありましたが、現在はどれも居心地の良さや使いやすさを重視している印象です。また、ふたつのディスプレイに表示されるGUIも刷新されており、新世代のトヨタ車を印象付けるインテリアでした。

さて、腑に落ちない部分はフロント周りです。

新型RAV4でも『ハンマーヘッド』と呼ばれる独特な形状のヘッドランプが採用されましたが、面構成的にも複雑で、ヘッドランプ周りが造形よりグラフィックを優先したような見た目になっている事が気になります。

ハンマーヘッドは性質上、クラウンプリウスなど、ボンネット前端が低いクルマこそ生きるデザインだと思いますし、開発コンセプトを鑑みると、リアの表現のように、もっとシンプルな面構成で、ボリュームで魅せるデザインの方が合っているのでは? と感じました。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

現役デザイナーの眼の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事