【元専門誌編集長の視点】フェラーリ296スペチアーレが日本初お披露目!既に全完売の先に見えるもの

公開 : 2025.06.21 13:15

スーパースポーツを販売することの難しさ

今回の発表会には、フェラーリのヘッド・オブ・プロダクト・マーケティングであるエマヌエレ・カランド氏とフェラーリ・ジャパン代表取締役社長であるドナート・ロマニエッロ氏が登壇。両氏は発表会の流れで行われたグループインタビューに登場した。

その一連のコメントを聞いていて感じたのは、こうしたスーパースポーツを販売することの難しさだ。カランド氏が繰り返し強調していたのは、ドライビングエモーションの向上で、『馬力を超えたところを目指す』という表現があった。

グループインタビューに答えるカランド氏(右)とロマニエッロ氏(左)。
グループインタビューに答えるカランド氏(右)とロマニエッロ氏(左)。    フェラーリ・ジャパン

かつて我々メディアは最高速にフォーカスしていたものの、それは販売する側も取り上げる側も交通規則に違反するという意味で、ナンセンスになってしまった。また今回、後輪駆動としては限界ともいえる880psを実現してしまったことで、次世代に対するハードルも高くなった。しかし、顧客は一度味わった刺激にはいつか慣れてしまい、それ以上のものを求めてくる。

では例えば、ハイブリッドなし? いやそれでは街中における最低限の快適性を損なってしまう。では敢えてマニュアルトランスミッション? いやそれではギアシフトスピードを再現できず、パフォーマンスを発揮する際に片手を離すのは危険が伴うとカランド氏はコメント。こうしていくつかの質問に対する回答を聞いていて、だんだんと296スペチアーレの落としどころが見えてきた。

大人しく感じたスタイリング

一方、個人的に気になったのは、スタイリングが大人しく感じたことだ。

GT3やチャンレジ、さらに言えばF1やWECマシンに由来するレーシングテクノロジーをフィードバックしているのは理解でき、それがフェラーリのDNAやアドバンテージになっていることは確かだ。念のため先に書いておくと、個人的に296スペチアーレのスタイリングは機能美に溢れていてとても魅力的だと思っている。

296スペチアーレは既に完売しており、そのオーナーのほとんどは296を所有しているという。
296スペチアーレは既に完売しており、そのオーナーのほとんどは296を所有しているという。    上野和秀

しかし、手法としてはライバルたちにも追従されていて、296GTB/GTSのスタイリングが元々エレガントであるからこそ、逆にそれをベースとした296スペチアーレに対して物足りなさを感じる側面もあるのだ。

先に書いたように296スペチアーレは既に完売しており、そのオーナーのほとんどは296を所有しているという。カランド氏はモンテゼーモロの時代からフェラーリで言われ続けてきた、『需要よりも1台だけ少ない供給』という表現を用いて、その魅力を高めて行きたいという趣旨の発言があった。つまりは、特別な顧客でないと、そこにはたどり着けないわけで、これだけでも296スペチアーレは成功したモデルと言える。

そして、今年登場するフェラーリ初のEVは予定どおり発表と答える一方で、今後V8モデルが続くか、V6が他モデルに転用されるかという質問には、「未来に対する話はできない」と笑顔でノーコメントとなった。

日本におけるフェラーリ・レーシング・デイズは今年で10回目の開催となる。そうしたプラットフォームを続けられるのは、日本が世界2位という販売台数をキープしているからで、その人気は今後も続くはずだ。しかしそれには、厳しい競争だけでなく、揺らぐ電動化やトランプ関税といった外的要因も影響してくる。

そういった中でフェラーリは、顧客にどうやって新しい刺激を与え、勝ち抜いていくのか? 様々な選択肢がある中で、果たして次の一手は何を選ぶのか? できればいい意味で期待を裏切って欲しいというが、筆者の偽らざる本心である。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影 / 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。
  • 撮影

    上野和秀

    Kazuhide Ueno

    1955年生まれ。気が付けば干支6ラップ目に突入。ネコ・パブリッシングでスクーデリア編集長を務め、のちにカー・マガジン編集委員を担当。現在はフリーランスのモーター・ジャーナリスト/エディター。1950〜60年代のクラシック・フェラーリとアバルトが得意。個人的にもアバルトを常にガレージに収め、現在はフィアット・アバルトOT1300/124で遊んでいる。

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