【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#13 モノが違うぜ!大貴族号

公開 : 2025.07.04 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、隔週金曜日掲載の連載です。第13回は『モノが違うぜ!大貴族号』を語ります。

登場から約20年、最も激安になっている!

かつてマセラティは、世界で最も信頼性の低いブランド(というイメージ)だった。ビトルボ系マセラティを中心に扱ってきたタコちゃん(マイクロ・デポ代表岡本和久氏)からは、とんでもないブッ壊れの悲喜劇をいろいろ聞いた。

23年くらい前にタコちゃんからマセラティ430を買ったのは、その『世界一の故障』を体験し、男として成長することが主目的だった。不幸にして一度も故障しないまま知り合いに譲ったが、その後そこらじゅうが故障したので、やっぱ時間の問題だったようだ。

大貴族号こと、筆者が購入した先代マセラティ・クアトロポルテがついに納車!
大貴族号こと、筆者が購入した先代マセラティ・クアトロポルテがついに納車!    平井大介

1997年、マセラティはルカ・ディ・モンテゼーモロ社長率いるフェラーリ傘下に入り、品質が大幅に向上(たぶん)。販売台数も増えた。先代クアトロポルテも登場以来大好評で、ビトルボ時代の人外魔境状態とは完全に決別した……はずだった。

ところが、登場から約20年を経た今、その先代クアトロポルテ(のデュオセレクト)が、マセラティ・ファンにすら最も恐れられ、最も激安になっている。同時期の中古フェラーリは、新車価格からほとんど下がってないのに、中古マセの価値は約10分の1に! 実際私も、中古フェラーリ購入の10倍は緊張しつつ、納車日を迎えていた。

大貴族号って意外と丈夫じゃん!

狭い未舗装路の奥の奥、人外魔境のメカトリエ(マイクロ・デポのつくばの拠点)に到着すると、そこにはタコちゃんと純白の大貴族号が待っていた。

クルマに近づくと、気温30度の中、エンジンがかかっている。私はそれだけで驚いてしまった。

タコちゃんことマイクロ・デポ代表の岡本和久氏(左)と筆者。
タコちゃんことマイクロ・デポ代表の岡本和久氏(左)と筆者。    平井大介

オレ「この暑さの中、アイドリングしたまんまでオーバーヒートしないんですね!」

タコちゃん「それくらいは大丈夫ですよ。エアコンも効いてます」

なんと! エアコンも効いてる! 私は感動した。大貴族号って意外と丈夫じゃん! オレのフェラーリ328じゃこんなのムリ!

マセって意外と大丈夫なのかもしれないな。フェラーリがあんまり故障しないのは、単にものすごくに大事にされてるからで、先代クアトロポルテも、同じように扱えば問題ないのかも。直感的にそんな気がした。

クルマをぐるっと見回す。リクエスト通り、ドアモールは左側だけピカピカで、右側は白サビがビッシリだ。違いのわかる男である。

運転席と助手席はリペアされて新車みたい。内装の樹脂はまだベタついてるし、アナログ時計の針もさびたまんまだけど、それもリクエスト通りだ。

最大の問題であるサスペンションは、ラバー部品の総とっかえにより、「激しい音と振動は消えたのを確認しました」(タコちゃん)。全体として、微妙な没落感が味わい深い大貴族に仕上がったようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 撮影 / 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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