【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#14 大貴族に巣食うエイリアン!

公開 : 2025.07.18 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、隔週金曜日掲載の連載です。第14回は『大貴族に巣食うエイリアン!』を語ります。

素性は隠せないぜ!

大貴族号(先代マセラティクアトロポルテ)のエンジンは、フェラーリV8。モノが違う。

モノが違うだけに、このテのビッグセダンとしては低速トルクがない。3000rpm以下では、踏んでもあまり反応しない。さすが高回転高出力型。4.2リッターもあるのに、素性は隠せないぜ!

大貴族号のダッシュボードに装着されていたレーダー探知機。
大貴族号のダッシュボードに装着されていたレーダー探知機。    平井大介

大貴族号は走る。メカトリエ(つくばにあるマイクロ・デポの拠点)を発し、常磐道を越え、首都高を走る。滑るように走る。都心が近づくにつれて、車内が騒がしくなってきた。

「カーロケ(パトカーが発する電波)を受信しました」
「制限速度は60キロです」
「駐車取り締まり重点エリアです」
「警察署です」
「前方に速度自動取り締まり装置です」
「GPS信号を受信できません」

正確には覚えていないが、そういった無意味かつ耳障りな女性の声が、頻繁に流れはじめた。ダッシュボード左端に設置された、いわゆるレーダー探知機の音声情報である。

このレーダー君のことは、前から認識はしていた。こりゃ外しといてもらわなくちゃ、とは思ったが、タコちゃん(マイクロ・デポ岡本和久代表)に伝えるのを忘れ、そのまま納車になった。タコちゃんのいるつくば周辺では、レーダー君も静かなので、つい。

自宅に到着し、改めてグローブボックスのリモコン群を確かめたが、レーダー君のリモコンはない。本体にはスイッチがないので、オフにするなどの操作は不可能。うーん困った。

まあいいや、そのうちなんとかしよう。

俺は勝った! 人生に勝った!

夜になり、改めて大貴族号を堪能すべく、首都高に出撃した。

首都高C1や11号台場線での大貴族号はすばらしかった。やっぱり、ひたすらエンジンがすばらしいのである。マニュアルモードに変更し、バドルで回転をコントロールしつつ走ると、これぞ陶酔のフェラーリ・セダン。甘美だ。甘い生活だ。

レーダー君をダッシュボードから引きはがし、配線を切断!
レーダー君をダッシュボードから引きはがし、配線を切断!    清水草一

俺は勝った! 人生に勝った!

しかしその陶酔を、レーダー君が邪魔する。都心だけに、昼間にも増して無意味で耳障りな情報を、ひっきりなしに喋り続ける。1分間のうち50秒間くらい「カーロケ遠方を受信しました」だの「GPS信号が受信できません」だの「駐車取り締まり重点エリアです」だのとまくしたてる。首都高に駐車するバカがいるか!

もうダメだ。気が狂いそうだ……。

このレーダー君、誰が付けたのか。なんとなく、1540万円出して新車を買った最初のオーナー様のような気がする。そのまま18年間、こうやって喋り続けているのか。歴代オーナー様は、この地獄の責め苦に耐えたのか。

もうやるしかない!

私は翌日、レーダー君をダッシュボードから引きはがし、配線をチョン切った。電源付きの配線を切ると、ショートによる車両火災のリスクがあるが、もうあの責め苦には1秒たりとも耐えられない。あれを聞きながら走るくらいなら、燃えたほうがマシだ!

配線をブチッと切り、首を取った瞬間は、心の底から「ザマーミロ!」と思った。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 撮影 / 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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