なぜクルマをこれほど安く作れるのか 型破りなコスト削減方法 英国記者の視点
公開 : 2025.07.09 18:45
ルーマニアの自動車メーカーであるダチアは、他社とは少し変わったアプローチでコストを抑えているようです。ルノー・グループの既存部品をただ活用するだけではない、型破りな方法とは。AUTOCAR英国記者コラムです。
ルーマニアで辣腕を振るうCEO
電動テールゲートが熱狂的な話題になるなんて、99.9%の確率で考えられないだろう。
しかし、デニス・ル・ヴォット氏の話を聞いていると、まるでヴァルター・ロール(世界チャンピオンのラリードライバー)が次期ポルシェ911にV12エンジンを搭載すると説明しているかのように思えてくる。

ル・ヴォット氏は技術畑の出身で、ルノー・グループ傘下のルーマニアの自動車メーカー、ダチアのCEOだ。業界を熟知した興味深い経営者の1人である。
トルコ、ロシア、ベルギー、米国などで、ルノー・日産関連企業を中心に活動。アフトワズ(旧ソ連の国営自動車メーカーで、1990年代に民営化され、ルノーに買収された後、2022年にロシア政府に返還された)の取締役を務めたこともある。
自動車業界の中でも華やかさとは程遠い場所で、利益を上げにくい状況でも利益を上げ続けてきた。ルノー・グループのCEO、ルカ・デ・メオ氏が彼をダチアに最適な人物だと考えた理由は容易に理解できる。ダチアは、ピストンリングがきしむまでクルマから利益を絞り出すブランドだ。
ル・ヴォット氏は、そのようなコスト削減を得意とする。筆者(英国人)は、フランス南東部プロヴァンスで最近開催された新型SUV『ビッグスター』の発表会で、その乗り心地やハンドリング(十分良い)についてではなく、同社がなぜこれほど安い価格でこのクルマを販売できるのかを尋ねた。
ビッグスターの価格は2万5000ポンド(約500万円)からで、その装備内容を考えると、アストン マーティンがBMW M4と同じ価格で新型ヴァンテージを販売しているのと同じようなものだ。特に見た目もいいだけに、ライバルたちがこのクルマにどうやって打ち勝とうとするのか、想像するのは難しい。市場はこれまで以上に熾烈な競争になりそうだ。
ダチアの戦略は3本の柱で構成されている。まずはモジュール性。これは当然のことだが(フェラーリなどの一部の自動車メーカーを除いて、皆が皆、この方法に頼っている)、ルーマニアの同社は他のメーカーよりもさらに一歩進んでいる。
小型EVのスプリングを除き、同社のクルマはすべてBピラーまで同じだ。ル・ヴォット氏は、ルノー・クリオをベースにダチア・サンデロ(小型ハッチバック車)を作るのに2年と3000人のエンジニアを要したが、サンデロからジョガー(ミニバン)を作るのにかかった費用はたった5ポンドだったと冗談を飛ばす。
小型SUVのダスターでは、主にサイドシルの強化と車高の調整で少しコストがかかったが、中型SUVのビッグスターではそこからさらにAピラーを50mm延長しただけで、それ以外に大きな変更はないという。
重量は1kg単位で厳しく管理されている。ビッグスターに7人乗り仕様がないのは、このセグメントの購入者の25%しか7人乗りを希望していないと判断したためだ。7人乗り仕様にする場合、リアアクスルを強化する必要があり、全グレードでコストが上昇してしまう。そのため、ビッグスターは5人乗り仕様のみとなり、主要なターゲット層だけに徹底して焦点を絞っている。


























