なぜクルマをこれほど安く作れるのか 型破りなコスト削減方法 英国記者の視点

公開 : 2025.07.09 18:45

焦点を絞りつつ、人気装備は外さない

ここで、ル・ヴォット氏は2本目の柱、つまりターゲット層が求めているものを把握し、USB-Cポートなどのニーズを決して見逃さないことの重要性を指摘する。

「正直に言うと、当社はドイツ人を研究してきました」とニヤリと笑う。ドイツは、ビッグスターのようなクルマにとって大きな市場なのだが、気難しいという特徴もある。ドイツ人がC-SUVに「必要としている」ものがあるなら、提供すべきだ。必要としていないなら、欲しがる人は他にいないだろうから、調達の手間も省ける。

ダチア・ビッグスターのテールゲート(英国仕様)
ダチア・ビッグスターのテールゲート(英国仕様)    AUTOCAR

「クルマにエアコンが付いていないと、失格です。しかし、助手席のパワーシートやシートベンチレーターはどうでしょう? 必要なものではないので、失格にはなりません。だからビッグスターには、初採用のデュアルゾーンエアコン、ツートーン塗装、電動テールゲートを用意しました。もし、これらを提供しなければ、大勢の人々が『買わない』と言うでしょう。ここは当社にとって複雑な、新しい領域です」

3本目の柱はサプライヤーとの交渉だ。この点では、厳しいロシアでの経験が、ル・ヴォット氏の決意を揺るぎないものにしている。各方面から聞こえてくる話では、彼と同社の経理担当者はかなり悪名高いようだ。

ル・ヴォット氏はこう語る。「ダチアは、このクルマを2万5000ユーロ、ハイブリッド車を3万ユーロで売ると決めたら、この金額を分割し、各部品に割り当てていきます。当然のことのように思えるかもしれませんが、ほとんどのメーカーはそうしません」

「他社は、自分たちが欲しいクルマを設計し、その部品をサプライヤーに頼み、最良の価格を得るために必死の交渉を行います。しかし、結果は予想外のものになります。100ユーロを想定していても、95ユーロではなく110ユーロになることが多い」

「それをすべて合わせると、予想よりも10%高くなってしまいます。わたし達はコストを考慮して設計します。車両価格を2万5000ユーロと決めたら、部品に切り分けて、この部品は45ユーロでなければならない、と伝えます。45ユーロで作れないなら、作りません。もちろん、少し時間はかかりますが、サプライヤーは改めて解決策を提案してくれます」

電動テールゲートもそういうことだ。要するに、ドイツ人がビッグスターに必要だと主張したので、ダチアのサプライヤーはコスト要件を満たすように開発したのだ。

1本のストラットは電動式、もう1本は油圧式だ。安価だが、ちゃんと機能するし、絶対に必要なものだ。これぞダチアの真骨頂と言えるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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