【大きな時代の変わり目】日産に求められる社会的責任 追浜工場閉鎖でどうなる『マザー工場の地』の今後

公開 : 2025.07.16 11:25

ついに、日産自動車の追浜工場が閉鎖になります。7月15日にプレスリリースが出て、同日夕方、イヴァン・エスピノーサ社長が記者会見を開きました。マザー工場ともいえる拠点の閉鎖に衝撃が走ります。桃田健史の解説&分析です。

地域経済に及ぼす影響は計り知れない

大きな時代の変わり目だ。多くの人がそう感じる、日産の最終決断である。

ついに、日産自動車の追浜工場が閉鎖になる。7月15日にプレスリリースが出て、それを受けて同日夕方、イヴァン・エスピノーサ社長が横浜のグローバル本社で記者会見を開いて説明した。

最終組立を行う追浜工場(神奈川県横須賀市)は2027年度末で閉鎖されることが発表。
最終組立を行う追浜工場(神奈川県横須賀市)は2027年度末で閉鎖されることが発表。    日産自動車

噂通り、最終組立を行う追浜工場(神奈川県横須賀市)を2027年度末で閉鎖する。現在生産している『ノート』と『ノートオーラ』は、日産自動車九州(福岡県苅田町)に移管する。また、日産車体湘南工場では『NV200』を2026年度で生産終了。その後の同工場の稼働については未定とした。

経営目線では、こうした事業の集約は当然のことだろう。

日産は昨年から、事業再生計画『Re:NISSAN』を掲げており、グローバル生産能力を350万台から250万台へ大幅削減するのだから。

これまで世界7つの工場を閉鎖すると表明しており、このうちのふたつが神奈川県内工場だったというわけだ。

だが、地域経済に及ぼす影響は計り知れない。日産は主要事業所が神奈川県内にある『神奈川企業』であり、サプライヤーや物流事業者等の経営の持続性が担保される保証はない。

直接的な雇用についても、労働組合と話し合いを持つとしているが、約2400人の追浜工場従業員の全てが現在の処遇に見合う転職ができるかどうかは不透明だと言わざるを得ない。

追浜地区にある研究所や実験走行施設などは運用を継続するとしているものの、配属できる枠が数千人規模とは思えず、また九州移住を決断できる家族がどれほどいるのか?

新たなる『まちづくり』に対する企業責任

自動車工場の規模は『生産能力』と表現され、同じ母屋であっても近代的な生産ラインは比較的短期間にメインラインを延長することも可能だ。筆者は先日、マツダの山口県防府工場でそうした最新生産設備の様子を確認した。

日産自動車九州、またFR車やEVを生産する栃木工場でも、様々な工夫によって生産能力を上げることは可能だろう。結果的に余った存在となる追浜工場等が姿を消すのは経営論理上、正解なのかもしれない。

追浜工場周辺にはサプライヤーも集まり、地域コミュニティが形成されている。
追浜工場周辺にはサプライヤーも集まり、地域コミュニティが形成されている。    日産自動車

ただし、追浜は1961年の稼働開始から高度経済成長期を経て、日産がグローバル戦略を進める上での『マザー工場』であった。多くの海外従業員が、追浜の地で日産のモノづくりや企業経営を学んできた。

そうしたマザー工場の地にサプライヤーも集まり、そして地域コミュニティが形成されていった。その地域社会が大きく崩れる。

自動車に限らず、これまで家電などでも全国各地の工場が撤退した際、地域経済に大きな打撃を及ぼしてきた。以前ならば、民間企業の生業なのだから工場閉鎖、跡地を転売という事の顛末に対して『致し方ない』と、地域社会は泣き寝入りするしかなかった。

だが、今や『持続可能性』が重視される時代だ。行政に地域再生を丸投げするのではなく、日産として『マザー工場の地』の今後について考慮する社会的責任があるように思う。

日産の企業再生と『まちづくり』や地方創生はワンパッケージであることが望まれる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    桃田健史

    Kenji Momota

    過去40数年間の飛行機移動距離はざっと世界150周。量産車の企画/開発/実験/マーケティングなど様々な実務を経験。モータースポーツ領域でもアメリカを拠点に長年活動。昔は愛車のフルサイズピックトラックで1日1600㎞移動は当たり前だったが最近は長距離だと腰が痛く……。将来は80年代に取得した双発飛行機免許使って「空飛ぶクルマ」で移動?
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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