【現役デザイナーの眼:フォルクスワーゲンID.バズ】初代ゴルフに通ずるデザイン!EVだからこそ実現したプロポーション

公開 : 2025.08.13 12:05

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が今回取り上げるのは、日本発売開始から話題となっているフォルクスワーゲンID.バズです。ワーゲンバスへのオマージュではありますが、初代ゴルフにも通ずる基本に忠実なデザインだと分析します。

フォルクスワーゲンらしいデザインとは?

『フォルクスワーゲンID.バズ』がついに日本でも発売されました。他にはないEVのミニバンであること以上に、ファニーなデザインは注目度も高いようで、自分のまわりでも話題になることが多いです。値段は高額ですが、唯一無二の個性があるクルマは魅力的ですよね。

さて、フォルクスワーゲンのデザインは、一般的に機能的でシンプルかつ上質な、ドイツ車らしい質実剛健的イメージを持つ方が多いのではないでしょうか。

日本上陸したID.バズ。上が標準仕様、下がロングホイールベース仕様。
日本上陸したID.バズ。上が標準仕様、下がロングホイールベース仕様。    フォルクスワーゲン・ジャパン

そのようなイメージの元祖は、1974年に発売された初代ゴルフでしょう。カーデザイン界で最も成功したジョルジェット・ジウジアーロ氏がデザインしたこのクルマは、あらゆる面でFFコンパクトカーのベンチマークとなりました。以降のフォルクスワーゲンは、これを踏襲するような機能優先で無駄のないデザインに統一するようになります。

しかし、近年のフォルクスワーゲンを見ると、やや装飾的なデザインが見受けられます。エッジが強いキャラクターラインを多用するようになり、迫力ある顔まわりや高級に見せようとする処理など、初代ゴルフの質実剛健さが薄まったと言えるでしょう。

ただ、これらは市場が要望したもので、質実剛健だけでは難しいことはカーデザインに携わった身からするとよく分かります。モデルチェンジごとに市場要望を織り込んでいく手法は、プロダクトを進化させるのに欠かせないものだからです。しかし、その結果フォルクスワーゲンの個性が薄まったとも言え、難しいものですね。

そんな中でひときわ個性的なID.バズは、ビビットな2トーンカラーに目が行きがちですが、実は現行ラインナップの中で最も質実剛健的な『フォルクスワーゲンらしい』デザインなのではないか? と実車を見て感じました。

現行モデルの中で最も『らしい』デザイン

EVのミニバンであるID.バズは、ご存知のとおり初代タイプ2(通称:ワーゲンバス)をオマージュしてデザインされています。

ワンボックスであったタイプ2のシルエットに近づけるには、エンジン車ではキャブオーバー以外難しく、一般的なFFレイアウトではどうしてもフロントが長くなり2ボックスになってしまいます。ですのでID.バズのデザインは、EVのパッケージだからこそ実現出来たものと言えるでしょう。

ワンボックスのタイプ2に近づけたのは、EVのパッケージだからこそ。
ワンボックスのタイプ2に近づけたのは、EVのパッケージだからこそ。    フォルクスワーゲン・ジャパン

意外にもこのような『EVのパッケージならでは』のデザインは少ないんです。ほとんどのEVのシルエットはエンジン車とあまり変わらないですよね。そういった意味でもID.バズはカーデザインの進化として意義のあるものと感じます。

実車を見ると、その大きさと2トーンのビビットな色でかなりの存在感があるクルマですが、造形自体は極めてシンプルな構成です。また、立体の繋ぎや面のアプローチ加減などしっかり作り込んでいることが分かり、それらが現行車で最も『フォルクスワーゲンらしい』デザインなのではと思うポイントです。

前後ともショートオーバーハングかつ大径タイヤというパッケージなので、ミニバンにも関わらす四隅がしっかりと踏ん張ったスタンスをしています。ルーフラインがリアタイヤ中心から下がっているのも効いていますね。スタンスの追求にとても基本に忠実なデザインという点で、初代ゴルフに通ずるものを感じました。

ワンボックスのパッケージ上、フロントガラスが乗員からかなり前方なので視界の点では気になりますが、それを差し引いても説得力のあるデザインをしています。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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