【現役デザイナーの眼:新型BMW iX3】小さくなったキドニーグリル!シンプルだか見えない方向性

公開 : 2025.09.11 11:45

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が今回取り上げるのは、新型が登場した『BMW iX3』です。小さくなったキドニーグリルに注目が集まりますが、逆スラントのフロントを含めて活かしきれてないようにも感じられます。

コンセプトカーとの違い

注目のEV、新型『BMW iX3』が発表されました。『ノイエ・クラッセ』(新しいクラスの意味)と名付けられていたコンセプトカーをティザーとしていた様に、BMWとして大変重要なクルマだということが伺えます。ソフトウェアなどが大幅に進化しているようですが、デザインもこれまでのBMWとは異なるアプローチがあります。

新型iX3のデザインは、2024年に発表された『ビジョン・ノイエ・クラッセX』というコンセプトカーを忠実に再現されていますが、実はドア断面に大きな違いがあります。

新型BMW iX3(上)とコンセプトカー『ビジョン・ノイエ・クラッセX』(下)。
新型BMW iX3(上)とコンセプトカー『ビジョン・ノイエ・クラッセX』(下)。    BMW

コンセプトカーのデザインは、ドア面に前後フェンダーが乗っている構成になっているのですが、それを表現するため下部のキャラクター線をドア断面のピーク(上面から見て最も車体外側)にしており、窓の下にショルダーらしいボリュームはありません。

ただ、フロントとリアまわりのピークは通常のSUVらしくランプあたりの高いところにあるので、ドア面だけピークが下というこのチグハグさがどうも気になっていたんです。

それが市販版のiX3では、ショルダー部分にしっかりとしたピークがあります。もしかしたらドアハンドルのスペースなど設計的にこうしないといけなかったのかもしれませんが、これで前後との辻褄があい、より一体感のあるデザインになりました。

しかし逆にいうと普通のSUVデザインになったわけで、私としてはコンセプトカーのドア断面を生かして前後のボリュームをドアに合わせたらどうなったのかと想像してしまいます(ちなみに似たような構成ですと、KIAのEV3あたりが統一感あるデザインになっています)。

いずれにしても一般的なカーデザインにとってのドア断面は、前後の立体を繋ぐ重要な役目があり、繋がって見えないと一体感に欠け魅力がなくなります。

面白いボリュームの顔まわりだが

新型iX3の顔まわりは、1961年に発表されたノイエ・クラッセのように小型で縦長のキドニーグリルと、そこから横に伸びてヘッドランプを包括するグラフィックで構成されています。さらにサイドシルエットでもBMWの伝統にならって明確に逆スラントになっており、その下のバンパーと合わせて造形的に面白いバランスをしていると思います。

みなさんご承知のとおり、キドニーグリルは近年大型化の一途でした。元々迫力を出すのに不利なデザインだと思っていましたが、メルセデスやアウディなどがどんどん大きくなる中、市場の要望も踏まえそうせざるを得なかったのでしょう。

コンセプトのデザインが忠実に再現されている中で、ドア断面が異なることに注目。
コンセプトのデザインが忠実に再現されている中で、ドア断面が異なることに注目。    BMW

その反動からか、iX3のキドニーグリルはこれまでと比べると大変ミニマルなデザインになっています。一般的にグリルのデザインというのは、特にプレミアムブランドでは顔の統一感において重要になってきますが、ここまで車種によって大きさのバリエーションがあるのはBMWだけかもしれません。

BMWの次世代EVは全てこのデザインになるのか、それともセダン版のコンセプトカー『ビジョン・ノイエ・クラッセ』のように、グリルとランプを一体にしてくるのか、注目されます。

さて、全体的な印象はクリーンで好感が持てるものですが、ややもっさりとしたプロポーション自体がBMWらしくなく、この顔まわりが活かされていない気がしています。写真で見る限りですが顔まわりが高すぎるのか、ボディとのボリューム感が異なるように思えるんですね。逆スラントのデザインがボディにやや繋がって見えてない印象を持ちました。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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