【現役デザイナーの眼:新型メルセデス・ベンツGLC】伝統を光で表現した大きなグリルもプロポーションとはアンマッチ

公開 : 2025.09.17 11:45

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が今回取り上げるのは、新型が登場した『メルセデス・ベンツGLC』です。大きなフロントグリルはメルセデスの伝統を光で表現していますが、プロポーションとはアンマッチに感じられます。

まずはグリルの話から

私は通常、クルマのデザインを解説するときはまずサイドシルエットやあらゆる角度から見たスタンスなど、クルマ全体を最初に触れます。

その後フロントまわりなどの要素に入っていくのですが(これが通常のデザイン作業の流れでもあります)、先週の『IAAモビリティ2025』でデビューした新型『メルセデス・ベンツGLC』はあまりにもグリルの主張が強いので、まずはそこからお話ししようと思います。

全体が光るフロントグリル。EVのトレンドに逆らうような主張の強いデザインですが、処理自体はコンサバ。
全体が光るフロントグリル。EVのトレンドに逆らうような主張の強いデザインですが、処理自体はコンサバ。    メルセデス・ベンツ

メルセデス・ベンツのデザインは、どの車種も非常に統一感があります。パッケージが全く異なる幅広い車種のある中、プロポーションの作りや面質など、どれも同じ印象を持たせるデザイン力はすごいと思うんです。

ただ最近は、特に顔まわりで個車ごとの変化をつけようとしています。左右のヘッドランプがつながったAクラスに始まり、新型GLCではグリルを縦長に変えてきたのですが、それに対しやや違和感を覚えました。

今回のデザインで目立つのは、何と言っても光る大きなグリルです。近年のメルセデスと比べて、より縦長のグリルになりました。

ドイツのプレミアムブランド3社が今年のIAAで揃って次世代EV車を発表しましたが、その中で興味深いのは、モチーフの発祥が3社とも全て過去の名車であることでした。しかしBMW iX3とアウディ・コンセプトCがグリルの主張を弱めた表現をしてきているのに対し、メルセデスは真逆のアプローチを取ってきたのです。

メルセデスのチーフデザインオフィサーであるゴードン・ワグナーのSNSによると、このグリルは縦目時代の280SEからインスピレーションを得たようで、デザインの出どころは理解できました。細かい格子のパターンはメルセデスの伝統のひとつなのでしょう。それを次世代EVらしく、光で表現しているんです。

縦長グリルの輪郭自体もその時代のメルセデスを意識したものでしょうが、そのせいかサイドから見ると絶壁のように縦にスパッと降りています。もしかしたらやや逆スラント気味かもしれません。

全体のデザインとグリルとのアンマッチ

最初にグリルの話をしたのは、全体のプロポーションを見た時にグリルの絶壁感が他のボディ部とアンマッチという印象を受けたからです。というのも、グリル以外の部分を見ると『丸い』印象を持ったんですね。

特にリアまわりはDピラーが割と寝ており、リアのシルエット全体もなだらかに下がっていて、どちらかというとエレガントな印象を受けます。

四角いフロントとなだらかなリア。ホイールベースの長さもあり、前後で異なった印象を受ける。
四角いフロントとなだらかなリア。ホイールベースの長さもあり、前後で異なった印象を受ける。    メルセデス・ベンツ

しかしグリルまわりのシルエットは無骨なSUVのイメージがあり、その辺がチグハグに感じました。GLSGLBのようにリアゲートが立ったシルエットだとわかるのですが。さらにEVということもあり、全長に対してホイールベースがだいぶ長いので、やや胴長な感じも否めません。

一方、インテリアはかなり洗練されている印象を持ちました。近年のメルセデスはインパネ全体をディスプレイにするような構成が多いですが、ディスプレイそのものは2、3個に区切られていたのに対し、今回のGLCでは横長で継ぎ目のないものになっています。

また、そのディスプレイ部が独立して浮かんでいるような造形になっており、思いのほか圧迫感のないものになっています。センターコンソールからの繋がりもスムーズで、ぜひ座ってみたいデザインだと思いました。

最近のカーデザインは、エクステリアは若干ネタ切れな印象も感じますが、インテリアはどんどん洗練され、新規性のあるデザインが出てきています。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

現役デザイナーの眼の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事