「小柄で安価」なフィアットが土台 アバルト600e(2) 愛されるエキゾチック異端ブランド

公開 : 2025.10.30 19:10

小柄で安価なフィアットが土台のアバルト600e リアバンパー裏のスピーカーから再生される排気音 深く愛されるエキゾチックな異端ブランド UK編集部が上陸を記念しサソリを探しに

排気音なしでも目立つアバルト600e

気温は暖かく、夕暮れのパブは賑わっている。人工の排気音なしでも、アバルト600eは目立つ。イエローのボディを目にすると、スマートフォンを向けてくる人は少なくない。自転車の子どもや、片付けをしている漁師にも見つめられた。

海岸で写真撮影していると、数人のクルマ好きが歩み寄って来る。その1人がホイールやボディキットを眺めながら、「太いマフラーも付いていそうですね」。と口にする。

アバルト600e スコルピオニッシマ(英国仕様)
アバルト600e スコルピオニッシマ(英国仕様)    サイモン・トンプソン(Simon Thompson)

「そう見えるかもしれませ・・・」。自分が答えようとすると、「30年くらい前に、スピットファイアみたいなノイズの、似たクルマに乗っていたんですよ」。と、うれしそうに被せてくる。そのことを聞きたいと思ったが、すぐに去ってしまった。

一体どんなクルマに乗っていたのだろう。「600eに似た30年前のモデル?」。と疑問は残ったが、黄色いアバルトを好意的に受け止めてくれていたことは間違いない。

小柄で安価なファミリーカーが土台

小柄で安価なファミリーカーを土台に、サスペンションを強化し、ワイドなホイールとタイヤを履かせ、パワーアップし、ボディキットやステッカーで飾ってある。レシピは、以前のアバルトと大きくは違わない。

カルロ・アバルト氏が手掛けたフィアットより、遥かに大きい。だが、悪ぶった見た目の速さを増したクルマへ、自身の名が掲げられていることに天国で喜んでいると思う。

アバルト600e スコルピオニッシマ(英国仕様)
アバルト600e スコルピオニッシマ(英国仕様)    サイモン・トンプソン(Simon Thompson)

フィアットとの差別化には、力が注がれている。ボンネットにスプリッター、リアスポイラー、ホイール、フロントフェンダーなど、目につくところにサソリのマーク。ステアリングホイールの中心にも、もちろんある。

ドアには、ABARTH+のステッカー。ダッシュボードはABARTHと刻印され、シートのグラフィックはサソリの尻尾のよう。サソリに注意、という警告文もチラホラある。

ぼんやりネオンブルーに光る虫

辺りが暗くなる中、勢いの良い600eでシアネス・ドックヤードへ。ビクトリア様式のタウンハウスが、肩を並べている。地名の由来となった廃墟へ近づく。静かに古い岸壁に沿った道を歩けば、仲間と出会える確率は高いという。彼らは夜行性だ。

岩の隙間などをブラックライトで照らすが、生き物らしい姿はない。曇った空が気に入らないのかもしれない。アウトビアンキで来るべきだったかな、と余計なことを考えていると、太陽が地平線へ消えていった。

アバルト600e スコルピオニッシマ(英国仕様)
アバルト600e スコルピオニッシマ(英国仕様)    サイモン・トンプソン(Simon Thompson)

少し落胆しながら、アバルトへ乗り込み、ヘッドライトをオン。その先へ、ぼんやりネオンブルーに光る虫がいる。思わず興奮して叫んでしまったが、静かにドアを開き、音を立てず壁面へ近づいた。グレートブリテン島には場違いな、毒々しい姿だ。

モルタル壁の隙間や、コンクリートの基礎にも数匹。性格は穏やかで簡単には毒牙を
向けないそうだが、彼らのねぐらへお邪魔しているのだから、刺激しない方が良い。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    役職:副編集長
    AUTOCARの若手の副編集長で、大学卒業後、2018年にAUTOCARの一員となる。ウェブサイトの見出し作成や自動車メーカー経営陣へのインタビュー、新型車の試乗などと同様に、印刷所への入稿に頭を悩ませている。これまで運転した中で最高のクルマは、良心的な価格設定のダチア・ジョガー。ただ、今後の人生で1台しか乗れないとしたら、BMW M3ツーリングを選ぶ。
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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