アバルト600e スコーピオニッシマへ試乗 281psの前駆 少しのアンバランスがホットハッチ的

公開 : 2025.04.09 19:05

600eに専用技術を投入したアバルト仕様 281psの前輪駆動でスペックはホットハッチ 本物の体験を求めて回生ブレーキはオフに 徐々に増大する力感 トルクステアは限定的 英編集部が評価

281psの前輪駆動 スペックはホットハッチ

パワフルなエンジンを積んだホットハッチを、パワフルな電気モーターで再現する試みは、複数のメーカーが挑んでいる。しかし、いずれも生煮え状態にある。

駆動用モーターを強化したり追加し、シャシーを引き締めても、下りのワインディングでジャイアントキラーのように振る舞えるわけではない。市場の動きは冷静でもあり、バッテリーEVへのシフトを慌てる必要はないと、気付き始めたメーカーは少なくない。

アバルト600e スコーピオニッシマ(英国仕様)
アバルト600e スコーピオニッシマ(英国仕様)

それでも、英国人が愛するホットハッチを、ルノーアルピーヌは電動で叶えてみせた。以前からこの分野のリーダー的な存在だったが、新しい「5」がベースのA290は、駆動用モーターでリフトオフ・オーバーステアを楽しませてくれる。

英国価格も、妥当な範囲にある。早速、英国編集部お気に入りの1台へ加わった。

しかし、イタリア勢も黙ってはいない。フィアット600eへ手を加えた、アバルト600eが登場した。試乗したスコーピオニッシマは最上級仕様で、最高出力は281ps。航続距離は320km、急速充電は最高100kWが主張される。

フロントへトルセン式LSDが組まれた前輪駆動で、タイヤは幅が225もあるミシュラン。パワーウエイトレシオや接地面積、駆動方式などを見ると、ピュアだった初代フォード・フォーカス RSと極めて近いことがわかる。

全長は4mm短く、1t当たりの馬力では、5psアバルトが勝る。全高は確かに異なるが、ホットハッチと呼ぶのに充分なスペックであることは否定できない。

本物の体験を求めて回生ブレーキはオフにも

水平に伸びたリアウイングは、リアのエンジンカバーを突き出した、往年のアバルト500を連想させる。スポーティなボディキットの内側には、通常の600eより140%強化されたアンチロールバーと、前で41%引き締められたコイルスプリングが組まれる。

ダンパーもアバルトの専用品。油圧バンプストッパーを備え、優れた減衰性と衝撃吸収性を得ている。ブレーキはアルコン社製で、フロントディスクの直径は380mmと大きい。

アバルト600e スコーピオニッシマ(英国仕様)
アバルト600e スコーピオニッシマ(英国仕様)

一般的なバッテリーEVの場合、運動エネルギーを無駄にしないよう、駆動用モーターによる回生ブレーキで速度調整をまかなう場面は多い。600eでも、通常は摩擦ブレーキの出番は少ない。

しかしスコーピオントラック・モードを指定すれば、ブレーキのフィーリングを重視し、回生機能は無効になる。ドライバーへ、本物の体験を与えるために。

ステアリングとスタビリティ・コントロールにも、大幅に手が加えられている。これらの電子的な技術も含めて、アバルト600eのプラットフォームは、プレフォe-CMPと名付けられた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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