兵どもが夢の跡 サンビーム・アルパイン・ラリー(1) 量産車へ反映された勝利の知見

公開 : 2025.11.22 17:45

高品質なモデルを安価に提供した、サンビーム・タルボ ラリーで得た知見を量産車へ イメージを上昇させた流線型ボディ 細部まで忠実にレストア UK編集部が70年前のワークスマシンをご紹介

高品質なスポーツモデルを安価に提供

兵どもが夢の跡。栄華を誇った帝国でも、滅びることはある。高品質なスポーツモデルを安価に提供したルーツ・グループは、半世紀前まで英国の主要メーカーの1つだった。

その量産ブランドの1つ、終戦後のサンビーム・タルボラリーで活躍し、性能面でも一定の名声を集めた。マーケティング上の戦略として、期待外れのモデルをベースとした、思いがけない成功だったとしても。

サンビーム・アルパイン(ワークスラリーマシン/1955年式)
サンビーム・アルパイン(ワークスラリーマシン/1955年式)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

1948年に提供された90は、現代的なボディに2.0L 4気筒エンジンを搭載。1951年にはエアインテークが追加され、ライトの位置が高くなった90 MkIIが登場する。

モータースポーツで活躍できる可能性へ少なくない英国人は気付き、ルーツ・グループの広報部門はそれを積極的に利用した。1948年のフランス・アルペン・ラリーではクラス優勝。1949年と1950年のラリー・モンテカルロでは、総合2位に輝いている。

量産車へ反映されたラリーで得た知見

これらの功績は、スターリング・モス氏やジョン・クーパー氏といった、ゲストドライバーへ頼る以前。ノーマン・ギャラッド氏率いるワークスチームの実行力と、悪条件へ負けない信頼性を武器に、国際舞台で勝利を収められることを証明していた。

1950年代に入り、サンビーム・タルボを飛躍させる機は熟していた。ラリーでの勝利という物語性や、スイスやフランスまで安心して旅立てる能力を宿した国産車へ、英国人は強く共感していった。アウトバーンでは、オーバードライブが効果的に機能した。

サンビーム・アルパイン(ワークスラリーマシン/1955年式)
サンビーム・アルパイン(ワークスラリーマシン/1955年式)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

ラリーで得た知見は、量産車へ直接的に反映された。90 MkIIのエンジンは、1952年のMkII Aから2267ccへ拡大。シャシーは強化され、ステアリングやブレーキも改良を受け、フロントサスペンションはビームアアクスルから独立懸架式へ刷新されている。

最高速度は、サルーンでもドロップヘッド・クーペでも、128km/hに届いた。ブランド名からタルボが外され、サンビームだけとなった90 MkIIIは1955年に登場。最高速度は149km/hへ上昇し、1200ポンドと優れた価格競争力も武器になった。

効果的にイメージを上昇させた流線型ボディ

1953年には、アクリル製サイドガラスを備えた2ドア・2シーターのロードスター、アルパイン Mk1が投入される。シャシーは90 MkII Aがベースで、エンジンは81psを発揮。リアには、ゴルフクラブを2セット詰める荷室が備わった。

高効率なマフラーとクイックなステアリングでスポーティさを狙ったが、車重は約1360kgと軽くはなかった。ベースの90MkII Aと比べれば、僅かに速い程度といえた。それでも、流線型ボディは効果的にブランドイメージを上昇させた。

サンビーム・アルパイン(ワークスラリーマシン/1955年式)
サンビーム・アルパイン(ワークスラリーマシン/1955年式)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

アルパインのボディは、90のドロップヘッド・クーペと並行して、コーチビルダーのスロップ&マバリー社が手作業で成形。現存は200台ほどと考えられる。ヒッチコック監督の映画「泥棒成金」ではグレース・ケリー氏が運転し、知名度の向上へ貢献している。

アルパインは、MkIIを飛ばしてMkIIIへアップデートされるが、1955年に販売終了。合計1582台が生産され、961台は北米へ輸出され、445台はグレートブリテン島に残った。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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