アウディF1参戦の裏側 秘密の拠点に潜入(前編) 隠しきれない緊張と不安、不明瞭な将来

公開 : 2025.11.29 11:25

F1グリッドにアウディのマシンが並ぶまで、残りわずか数か月。新レギュレーションの導入も相まって、先行きはまったく見通せません。チームはどのように取り組んでいるのか、不安と緊張に包まれる活動拠点を訪れました。

フォーシルバーリングスの過酷な挑戦

残り115日9時間15分30秒。ドイツ南部のアウディのF1拠点では、壁やスクリーン、あらゆる人の口元が、87年ぶりにグランプリに復帰するまでの残り時間を刻んでいる。

しかし、この節目を目前に、チームは数多くの未解決課題に直面している。

アウディは2026年のシーズンからF1への参戦を決めた。
アウディは2026年のシーズンからF1への参戦を決めた。

アウディは、レギュレーションが全面改定されるシーズンに、モータースポーツのトップカテゴリーへの参戦を決めただけでなく、完全に単独で挑む道を選んだ。長年活動してきたザウバーを買収し、シャシー開発を委託する以外、新チームのあらゆる要素を一から開拓しているのだ。

さらに、アウディはわずか4年以内にチャンピオンシップ争いに加わることを目指している。

決定的に重要なのは、自社開発のパワーユニットを導入する点だ。メルセデスAMGホンダフェラーリ、レッドブル・フォードといった主要メーカーの下請けとなることに抵抗感を抱いたのは明らかである。最高執行責任者クリスチャン・フォイエ氏も認めるように、この選択はチームを「6年遅れ」の状態に置くことになった。新規参入のライバルであるキャデラックは、当初フェラーリのパワーユニットを使用する。それでもフォイエ氏は、「恐れるものは何もない」と言う。

ノイブルクのF1拠点へ

AUTOCAR英国編集部は、ドナウ川沿いのノイブルクにあるアウディ・モータースポーツ技術センター内のF1ファクトリーを訪れた。

目立たない建物だ。黒ずんだ鋼鉄の無骨な集合体が、同じく無骨なテストコースの裏側にひっそりと佇んでいる。

新レギュレーションに対応するため、アウディは急ピッチで研究開発を進めている。
新レギュレーションに対応するため、アウディは急ピッチで研究開発を進めている。

一歩足を踏み入れて初めて、そのスケールの大きさが明らかになる。入室前に電子機器を預け、秘密保持を誓約させられる。そして二重に施錠されたドアをくぐると、たちまち猛烈な熱気に襲われる。電気機器が絶え間なく甲高い音を立てている。炉のような熱波が冬の冷気を吹き飛ばすほど、屋内はコンピューターやスキャニング装置で埋め尽くされているのだ。

白い廊下を進んで最初に訪れたのは燃料ラボだ。この場所が、アウディの成功の要である。来年施行される新レギュレーションの鍵となるのは、ガソリンスタンドで販売されるE10燃料から、バイオ燃料やeフューエルといったカーボンニュートラルな代替燃料への移行だ。

品質管理責任者クラウス・スパンク氏によれば、エンジン特有の燃焼プロセスに精密に適合させることが可能となり、高い性能を引き出すことができるという。しかし同時に、燃焼挙動には不確実性も伴う。作業台には研究用の色とりどりの燃料フラスコが無数に置かれている。

問題を特定する鍵となるのが使用済みオイルであり、サンプルを1万度もの高温で燃焼させ、不純物を検査するという。しかし、アウディは、レースはおろかテストでさえ完成エンジンを稼働させたことがなく、F1初シーズンに何が待ち受けるかほとんど予想がつかない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    役職:編集アシスタント
    2022年よりAUTOCARに加わり、ニュースデスクの一員として、新車発表や業界イベントの報道において重要な役割を担っている。印刷版やオンライン版の記事を執筆し、暇さえあればフィアット・パンダ100HP の故障について愚痴をこぼしている。産業界や社会問題に関するテーマを得意とする。これまで運転した中で最高のクルマはアルピーヌ A110 GTだが、自分には手が出せない価格であることが唯一の不満。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

アウディF1参戦の裏側の前後関係

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