アウディF1参戦の裏側 秘密の拠点に潜入(後編) 自らを信じる気持ちが生んだザウバーの「成長」
公開 : 2025.11.29 11:45
F1グリッドにアウディのマシンが並ぶまで、残りわずか数か月。新レギュレーションの導入も相まって、先行きはまったく見通せません。チームはどのように取り組んでいるのか、不安と緊張に包まれる活動拠点を訪れました。
複雑かつ壮大な運営プロセス
施設の奥深くに、フォイエ氏が「ミッションコントロール」と呼ぶ場所がある。足を踏み入れた途端、空気が一変する。ファクトリーのむき出しの漆喰壁やまばゆいばかりの白い照明といった工業的な要素とは対照的に、この区域は真っ黒に塗られ、映画館のようなスポットライトが灯されている。
狭い階段を登り、巨大なレースデータのプロジェクションを覗き込む感覚は、まさにデフコンレベルが一段階上がった国防総省の神経中枢に足を踏み入れたときのそれと同じだ。レースデータ、テレビカメラ映像、無線通信記録が山のように表示されるが、室内の秩序は保たれ、整然としている。

この部屋の存在自体が、アウディの特異な参戦経緯を示していると言えるだろう。ザウバーはすでにスイス・ヒンヴィルの拠点に同様のインフラを有しており、そこのコントロールルームはノイブルク拠点と並行して運用される。つまり66名のエンジニアが2か国に分散し、さらに各グランプリで58名のトラックサイド要員が加わる。これに伴い、階層構造、職務内容、そして当然ながらデータの量が目もくらむほどに複雑化するのだ。
チーム代表のジョナサン・ウィートリー氏が「プロセスの大部分を指揮している」とフォイエ氏は説明する。ウィートリー氏にとっては、英国ミルトンキーンズを拠点とするレッドブル・レーシングでスポーツディレクターを務めていた時期と比べ、大幅なスケールアップと言えそうだ。
誰にも予想できないレースが始まる
アウディはこの挑戦の難しさを自覚している。
「2030年をチャンピオン争いの目標と定めた以上、その困難さは十分承知しています」と、元スクーデリア・フェラーリ代表でプロジェクト・ディレクターのマッティア・ビノット氏は語る。「期待と野心を適切に管理すればプレッシャーも制御できるでしょうが、慣れなくてはなりません。この世界ではプレッシャーは切っても切れません」

しかし、ビノット氏は、F1参戦をはじめとする難しい決断の必要性については自信を持っている。「それらの選択がなされた時、わたしはまだプロジェクトに関わっていませんでした。しかし、将来的に成功し、勝てるチームとなるための明確な決断だったことは間違いありません。確かに複雑さは増すかもしれませんが、それは必須条件です」
「シャシーとパワーユニットを完全にコントロールすることで、競争上の優位性、技術的な優位性を得られます。単に参戦するだけでなく勝利を目指している以上、これは当然の選択でした。明確な野心を持っているからこそ、複雑さを受け入れるのです」
レギュレーションの劇的な変更により、アウディはもちろん他の10チームも来季の順位を予測できていないという。ビノット氏は「これまで把握していたすべてのパラメータがもはや通用しなくなった」と認め、自チームにも確かな見通しはないと語る。
「性能面で以前重要だった要素が、今日や明日には変わるかもしれません。何十年もレギュレーションに合わせてツールを微調整してきたので、何が速いのか、速くするために何が重要かを知っています。これが将来に向けて最も大きく変化すると思います」
「今日では何が重要なのか、疑問符がつきます。今のツールに尋ねれば答えは出るかもしれませんが、実際にレースを始めれば、現実と事実は異なるでしょう」
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