鼻も凍るほどの寒さ 北極圏での開発車両テスト、過酷だが魔法のような魅力も 英国記者の視点
公開 : 2026.01.05 17:05
北極圏での冬季テストはクルマにもエンジニアにも過酷ですが、そこには何か魔法のような不思議な魅力があります。美しくも厳しい、北欧スカンジナビアでの取材の面白さとは? AUTOCAR英国記者コラムです。
美しくも厳しい冬季テスト
北欧スカンジナビアから何千kmも離れた場所に住むわたし達でも、アルヴィッツヤウル、アルイェプローグ、ロヴァニエミといった地名に馴染みがあるのは、クルマ好きだからだろう。
毎年冬になると、これらの凍てついた土地には欧州各地から多くの自動車メーカーが集う。公的施設とプライベート施設の両方を使い、ABSソフトウェアの調整や、摂氏マイナス30度の極寒における流体粘度の検証などを行うのだ。

日照時間が限られ、気温も恐ろしいほど低いため、あらゆる面で過酷なテスト環境である。
機械もさることながら、各地から派遣されるテストエンジニアは、たとえ1週間という比較的短いローテーションでも精神的に厳しいと感じてしまう。暗く、寒く、作業自体が危険でストレスフルなこともある。
筆者はこうした場所を訪れるのが好きだ。この感覚は、週末にデヴォンの田舎で過ごし、その風情ある田園風景に魅了されるロンドン市民に似ていると思う。彼らは、苦労して生計を立てている農家の窮状や、診療所の閉鎖、バス路線の廃止といった諸問題で苦しむ村々の現実を見ようとしない。
雑誌記者としてラップランドに招かれて36時間滞在し、凍った湖の上でプロトタイプを滑らせたり、トラクションコントロールのエンジニアたちが開発車両を信じられない速度で走らせる様子を追いかけたりする体験は、確かに非現実的だ。それでも魅惑的な体験であり、人生で唯一、防寒インナーをカバンに詰めるのが楽しみな時でもある。
北極圏でしか体感できない雰囲気
こうした取材旅行では主にエンジニアリングに注目する。自動車メーカーは極寒の環境で、ハンドブレーキが一晩で凍結するかどうか、意図せぬ高速スピンに陥った2.5トンのセダンをトルクベクタリングで制御可能かどうかなど、あらゆることを検証する。
テストに携わるスタッフたちもまた、非常に興味深い。数週間前には南アフリカやデスバレーで車両をテストしていたかもしれない。魅力的だが疲れる生活であり、彼らの声をボイスレコーダーに記録する価値は十分にある。

だが本当に心を打たれるのは、空気感だ。フィンランド北部ロヴァニエミへ向かうなら、ヘルシンキ経由で飛ぶことになる。バルト海とボスニア湾の間にある自治領オーランド諸島の上空を通過する。
機内から見える島々は非現実的な雰囲気を醸し出し、その感覚は帰路で再び上空を通過するまで完全には消えない。ヘルシンキでは遠隔地の国内線ターミナルに着陸する(メルセデス・ベンツのデザイン責任者ゴーデン・ワグナー氏がルイ・ヴィトンのスーツケースを携えているのを見かけることもある。実話だ)。
乗り継いだ飛行機では、迷彩服を着た若い徴兵兵士と隣同士になる可能性が高い。
心地よく陰鬱で瞑想的な音楽を聴く
文明の果てへ向かう雰囲気をさらに盛り上げるには、心地よく陰鬱で瞑想的な音楽を聴くといい。クヌート・レイエルスルード(ノルウェーのギタリスト)とイーヴェル・クライヴェ(ノルウェーの作曲家)による1991年のアルバム『Bla Koral』がぴったりだ。そして完全な闇の中に着陸する。滑走路には雪が蛇のように吹き荒れている。
その後、ウッドパネル張りのホテルへ。暖房は太陽フレア並みの強さだ。質素だが、良い。夕食はポロンカリスティス(フィンランドの伝統的なトナカイ肉のシチュー)。翌朝は早起きだ。
クルマへ向かう途中、足元には新しいふわふわした雪が積もっており、鼻毛が凍りつく。それから凍った湖へ、そして不気味なほど深い森の中へ。木が密生し、粉雪が這う小道を進んでいく。爽快で、謙虚な気持ちにさせられるとともに、ほんの少しスピリチュアルな気分になるのだ。
































































