スバルの衝突実験デモで目の当たりにした安全への執念 知っておきたい強い意志と美学【フォレスター・オーナーの黒木美珠が目撃】

公開 : 2026.05.28 17:25

目標は『死亡交通事故ゼロ』

同社は『死亡交通事故ゼロ』を目標に掲げており、2024年のデータでは日本国内におけるスバル車の死亡事故はわずか1件です。一歩間違えれば人の命を奪う危険性を伴う自動車。それを作るメーカーとしての責任の取り方と使命を感じます。

特筆すべきは歩行者エアバックの存在。現在6車種に装備していますが、正直なところ、歩行者エアバックが決め手でスバル車を選ぶ人はほとんどいないと思います。「へー、ついているんだ」くらいの認識、もしくはずっと知らないまま乗っている方もいるかもしれません。

2024年のデータでは日本国内におけるスバル車の死亡事故はわずか1件です。
2024年のデータでは日本国内におけるスバル車の死亡事故はわずか1件です。    黒木美珠

しかしこの装備、もしかしたらメーカーにとっては原価を押し上げる要因と筆者は考えています。それでもつけてくる。

事故を未然に防ぐアイサイトと、それでも防ぎきれなかったときに歩行者や自転車の被害を少しでも軽くし、致命傷を防ぐ努力のひとつとしての歩行者エアバック。それらの存在はめぐりめぐって、事故を起こしてしまったドライバーの過失性の軽減にもつながります。ここに、このメーカーの安全への強い意志と美学を感じるのです。

目の前で砕け散った、見慣れた顔

メーカーの開発者やナスバの担当者による説明が行われたのち、いよいよ今回のイベントの目玉へ。実際の衝突実験デモンストレーションです。

試験内容は『新オフセット前面衝突』。正面衝突ではなく、車両右半分同士がそれぞれ時速50kmで、相対100kmの衝撃を観測するもの。実験前にはこんなアナウンスがありました。

これだけ損傷していても、Aピラーより後ろはいつもの姿のままで、ドアは開くのです。
これだけ損傷していても、Aピラーより後ろはいつもの姿のままで、ドアは開くのです。    黒木美珠

「衝突の瞬間は瞬きをしないでください」

事故とは本当に、瞬きひとつのタイミングで人生が変わってしまう出来事なのだと、その言葉だけで痛感させられます。

実験が行われたのは体育館のような大きな実験棟。車両はその中にはなく、部屋の外から速度をつけて走り込んでくる設計です。

10秒前からカウントダウンが始まり、遠くから物体が近づいてくる音がします。室内に車両が入ってきたと思ったら、そこからはあっという間でした。大きな衝撃音とともに白煙が舞い、遅れてエアバックの火薬の匂いが漂います。見慣れたフォレスターの顔が一瞬でグシャッと砕け散り、正直、かわいそうに思えました。

「毎日のようにやっていますよ」

正面は一目では何の車種かわからない顔になってしまいましたが、Aピラーより後ろはいつもの姿のままです。これは意図的な設計で、クラッシュゾーンと呼ばれるエネルギー吸収ゾーンが確実に衝撃を受け止め、キャビンゾーンの生存空間を守る構造になっています。

ドアもいつも通り開きました。乗員が閉じ込められることなく、脱出および救出ができる。壊れるべき部分が壊れ、守るべき空間が守られています。

衝突実験は毎日のように行っているというから驚きました。
衝突実験は毎日のように行っているというから驚きました。    スバル

どのくらいの頻度で衝突実験を行っているのか尋ねると、「毎日のようにやっていますよ」という答えが返ってきました。月に一度くらいかと思っていた筆者には、驚きの一言でした。

その積み重ねの先に、ファイブスター大賞がある。礎になってくれた今までの車両に、思わず合掌したくなります。死亡交通事故ゼロを目指すこのメーカーの意志は、言葉だけではないのだと感じました。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    黒木美珠

    Miju Kuroki

    1996年生まれ、静岡県出身。自動車系YouTuberとしての活動を経て、自動車ジャーナリスト(の卵)へと転身。自身の車中泊による日本一周の経験をきっかけに、クルマを通じたライフスタイルの可能性に魅了されるようになる。現在は、輸入車デビューを目指す連載をはじめ、車中泊視点での車両レビューや、YouTubeチャンネル『AUTO SOUL JAPAN』の運営など、多角的に活動中。クルマを単なる移動手段や機械としてではなく、その背景にある開発者の想いや、クルマを取り巻く文化、そして『移動すること』そのものの価値を伝えることをモットーとしている。

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