英国の建設機械メーカーが水素エンジン車で快挙 『JCBハイドロマックス』陸上速度記録を樹立(前編) 当初から平穏ではなかったプロジェクト

公開 : 2026.08.26 17:05

2基の水素エンジンで800ps

ディーゼルマックスから引き継がれた重要な要素の1つが、ドライバーのグリーン氏だ。彼は1997年、ジェットカー『スラストSSC』で1227.9km/hの陸上速度記録を樹立した人物である。現在64歳のグリーン氏は身体検査を受け、まだハンドルを握れることを示した。一方のJCBは、彼に燃料の安全性を納得させなければならなかった。

グリーン氏は、「最初は『どれくらいの加圧水素が詰まったクルマに、俺を乗せようってんだ?』と聞きましたよ。JCBはその安全性について、完全に納得させてくれました。今では、ガソリン車やディーゼル車よりも水素自動車に乗りたいと思っています」と語った。

JCBハイドロマックスの水素エンジン
JCBハイドロマックスの水素エンジン    JCB

プロジェクトの大半は社内で進められたが、外部の専門企業の協力も得た。

リカルド社は、JCBの量産仕様の4.8L水素燃焼エンジンを、75psから800psへと改造するよう依頼された。同社は特殊なラジエーター、インタークーラー、ターボチャージャーを取り付け、100kgの軽量化を図り、ハイドロマックスの重心を下げるためにエンジンを横向きに配置できるよう改造した。計6基のエンジンが手作業で組み上げられた。

プロドライブ社は鋼管フレームのシャシーとマルチリンクサスペンションを開発し、エクストラック社が6速トランスミッションを提供した。そして、速度記録用タイヤの市場シェアをほぼ独占しているグッドイヤーが、このプロジェクト向けに特注のタイヤセットを開発した。

タイヤと空力性能も重要な焦点

ディーゼルマックスの性能は本質的にタイヤによって制限されていた。バラード氏によれば、新しいグッドイヤー製タイヤは「400mph(640km/h)を超えるまでストレステストが行われており、ほぼ限界に近い状態だった」という。

空力性能にも重点が置かれ、ディーゼルマックスよりも空気抵抗を10%低減するよう設計が練り上げられた。ボンネビル向けの特徴的な機能として、塩分が車体下部に付着して空気抵抗の原因となるのを防ぐため、塩を強制的に排出する特殊形状の飛沫排出チャネルがある。

JCBハイドロマックスのタイヤ
JCBハイドロマックスのタイヤ    JCB

記録挑戦前にチームに足りなかったのは走行距離だ。ユタ州へ向かう前に英国空軍のウィッテリング基地で1回テストが行われ、そこでグリーン氏が200mph(320km/h)をわずかに超えた程度だった。ハイドロマックスのテストの大部分は、ボンネビル・スピードウィークという公の場で行われることになった。

公の場でテストを繰り返す

スピードウィークはボンネビル・ソルトフラッツの一大イベントであり、何百もの勇敢なチームと何千人もの観客をザ・ソルトに集める。

最寄りの町はウェンドーバーで、ユタ州とネバダ州の州境にある。ホテルのほとんどは州境のネバダ州側にあり、巨大なカジノが併設されている。トラックストップのような雰囲気を備えたラスベガスといったところだ。

JCBハイドロマックス
JCBハイドロマックス    JCB

速度記録挑戦車の開発に費やされる労力を考えると、実際に走行する距離の少なさには拍子抜けしてしまう。

グリーン氏は、「到着した時点で、わたし達が走った距離はル・マン7周分に相当していました。テスト走行を7周しかしていないマシンで、あのレースに臨むことを想像してみてください」と話す。

ザ・ソルトの難点は、路面が常に変化し続けていることだ。白い地面の多くは固くひび割れた層で覆われ、無数の凹凸がある。そこで、陸上速度記録を管理する南カリフォルニア・タイミング協会(SCTA)のスタッフたちは、大きな金属ブロックを牽引するピックアップトラックの隊列でコースを何度も往復し、平らで滑らかな路面を作り出す。

それでも、場所によって塩の厚さやグリップレベルが変化する。また、気温の変動により、地表付近の水分量にも大きなばらつきが生じる。ザ・ソルトについて学ぶには、実際に走ってみるしかないのだ。

(翻訳者注釈:この記事は「後編」へ続きます。)

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

『JCBハイドロマックス』陸上速度記録を樹立の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

Google検索で『AUTOCAR JAPAN』の記事を見つけやすくする方法

人気記事