英国の建設機械メーカーが水素エンジン車で快挙 『JCBハイドロマックス』陸上速度記録を樹立(前編) 当初から平穏ではなかったプロジェクト

公開 : 2026.08.26 17:05

英国の建設機械メーカーであるJCBが、『ハイドロマックス』と呼ばれる水素エンジン車で平均653.9km/hの速度記録を樹立しました。関係者へのインタビューを通じて、歴史的快挙に至るまでの経緯を詳しく紹介します。

「塩の平原」をめぐる物語

ボンネビル・ソルトフラッツという名称は、探検家ベンジャミン・ボンネビルにちなんで名付けられた。しかし、米国ユタ州のこの静かな平原に集い、極限の車両を可能な限り高速で走らせることに魅了された人々は、ここを「ザ・ソルト」と呼び親しんでいる。

定冠詞の「ザ(the)」が使われているのは、単に湖が干上がっただけの跡地ではないからだ。ザ・ソルトは広大で、異世界的な雰囲気すら漂わせる荒涼とした大地だが、同時にさまざまな歴史に彩られている。空気は暑く乾燥し、非常に塩分濃度が高く、長時間過ごすには過酷な環境だ。実はそれこそが、スピード記録に挑戦する人々にとって抗いがたい魅力となっているのだ。

JCBハイドロマックス
JCBハイドロマックス    JCB

ボンネビルは究極の白紙のキャンバスである。野心と夢さえあれば、ここで自分だけの物語を紡ぐことができる。可能性は無限大だが、その夢が「直線で猛スピードを出すこと」に関わるなら、なおさら良い。そして今から1年半前、英国の建設機械メーカーJCBのバンフォード会長はある物語を思い描いた。

厳密に言えば、これは続編だった。20年前、JCBの『ディーゼルマックス』がボンネビルに登場し、ディーゼル車として最速の約560km/hという陸上速度記録を樹立したのだ。今回、バンフォード会長は自社で開発中の水素燃焼技術を世間にアピールしたいと考えた。

実現可能なら、やるしかない

彼はJCBのエンジニアリング・ディレクターであるライアン・バラード氏と、チーフエンジニアのリー・ハーパー氏を呼び出し、ショベルカー用の水素燃焼エンジンを2基用意し、水素自動車の速度記録とディーゼルマックスの記録の両方を塗り替えるよう指示した。

バラード氏はその会議を終えた時、これはバンフォード会長の現実離れした夢であり、到底実現不可能だと考えていた。しかしその後、ハーパー氏とともに検討を重ねて分析してみたところ、実現可能だと気づいた。「つまり、実際にやってみるしかなかったということです」と彼は言う。

JCBハイドロマックスとアンソニー・バンフォード会長
JCBハイドロマックスとアンソニー・バンフォード会長    JCB

それから1年半後、ドライバーのアンディ・グリーン氏が『JCBハイドロマックス』を駆ってソルト・フラッツを平均406.320mph(653.9km/h)で走破した。その直後に、バラード氏は筆者の前に腰を下ろした。その表情は疲れを帯びつつも、安堵と大きな満足感に満ちていた。バンフォード会長の夢を実現することができたのだ。

見た目ほど単純な話ではなく……

陸上速度記録を樹立するために与えられる時間は1時間未満。その中で本当に重要なのはわずか18秒ほどに過ぎない。FIAの規則では、コースを往路と復路で1回ずつ走行しなければならない。1回目の走行開始から、復路のゴール地点を通過するまでの時間は60分以内と定められている。

JCBチームは全長10マイル(16km)のコースを使用し、両端にそれぞれ1マイル(1.6km)のランオフエリアを確保した。肝心なのは計測区間の1マイルで、ハイドロマックスはこの区間を653.9km/h、9秒未満で走り抜けた。

JCBハイドロマックス
JCBハイドロマックス    JCB

「走行自体は比較的平穏でした」とバラード氏は振り返る。「ですが、一見穏やかに見えても、実際には多くのことが起きていたんです」

このプロジェクト自体、当初から平穏だったわけではない。公式発表は今年5月だったが、バラード氏率いるチームはそれより1年ほど前から集中的に作業を進めていた。

プロジェクトはまさにJCBによる情熱の結晶と言えるだろう。バラード氏、ハーパー氏、そして数多くの従業員が、本業である建設機械の開発と並行して、ハイドロマックスと水素パワートレインの開発に取り組んだ。メンバーの中にはかつてディーゼルマックスの開発に携わった人もおり、同車が基本的なテンプレートとなった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

『JCBハイドロマックス』陸上速度記録を樹立の前後関係

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