「情熱」は決して消えず 鍵を握るのは演算能力 メルセデス・ベンツCEOが語る、クルマ好きもEVを気に入る理由(後編)

公開 : 2026.09.03 17:10

高性能スポーツモデルにも注力

「そこには人間的な要素があります。まるで彼らの体の中に、完璧なセッティングを実現できるセンサーが備わっているかのようです。ブランドごとに特徴は異なりますが、メルセデスのお客様は、安全性とコントロール性、快適性に加えて、必要に応じてクルマを限界まで追い込めるという期待を抱いているのです」

マクラーレンやAMGでの経験を持つケレニウス氏は、ドライバーがクルマを限界まで追い込もうとした時にも、期待に応え続けることを特に重視している。彼は、英国での6年半の滞在中に友人たちとサーキット走行会に参加したことを懐かしく振り返りながら(お気に入りのサーキットはグッドウッド)、アファルターバッハのAMGをさらに成長させたいという意欲を見せる。

新型メルセデスAMG GT 4ドア・クーペ
新型メルセデスAMG GT 4ドア・クーペ    メルセデスAMG

「わたし達の目標は、パフォーマンス部門を他部門以上に成長させることです。長年にわたりAUTOCARの読者だった身として、同誌の読者がスポーツカーについて詳しいことは承知しています」と彼は笑いながら語った。

AMGは現在、パフォーマンスを最大化するために専用プラットフォームを基盤とした車両開発を始めている。もちろん、社内のシナジーも活用している。「空調システムついて、AMG専用バージョンは必要ありません」とケレニウス氏は言う。しかし、AMGモデルとメルセデス・ベンツの幅広いラインナップとの間には、今後も「相互に刺激し合う」関係が続くという。

「V8サウンド」を備えた新型CLA

その一例がAMGの新型『CLA 45』だ。このモデルには、V8エンジンのサウンドや仮想ギアチェンジ時の感触を再現できる電動パワートレインが搭載されている。

「このシステムを搭載したCLA 45を初めて運転した時、まるで生まれ変わったような気分になりました。それはわたしがこれまで運転した中で最高のV8でした。V8ならではの感覚を備えつつ、さらにパワーとトルクも増していたのです」

新型メルセデスAMG CLA 45
新型メルセデスAMG CLA 45    メルセデスAMG

とはいえ、仮想の電動V8が本物のV8に取って代わるわけではない。ケレニウス氏は、自動車業界が電動化への道のりで「転換点を迎えた」と考えている一方で、「消費者はまだそこまで至っていない」と認めている。

彼は、メルセデスは「完全電動化」という最終目標から「揺らぐことはなかった」としつつも、「ハイテクな電動化内燃機関」への取り組みも放棄しなかったと語る。

発明への情熱は決して消えない

メルセデスで一貫しているのが、ノウハウを社内に留めておくという姿勢だ。現在、ジーリー(吉利汽車)との50対50の合弁事業となっている『スマート』を除き、他メーカーとの提携を極力避けてきた。

ケレニウス氏はその理由はとして、「グローバルなトッププレイヤーになるという野心があるなら、すべてを把握していなければならないからです。そのため、当社はテクノロジー企業や従来のサプライヤーと深いパートナーシップを築いていますが、クルマの設計はあくまでも当社が担っています」と語った。

オラ・ケレニウス氏
オラ・ケレニウス氏

ここで残念ながら、ケレニウス氏の操るCクラス・エレクトリックが発表会場の入口へと戻っきたたため、この快適な「車輪のついた家」を後にする時が来た。しかし、電動化が主流となり、ソフトウェア定義の車両が道路を走るようになった今、自動車開発のペースは近いうちに減速を始めるのだろうか?

「むしろ加速すると思います」とケレニウス氏は反論する。「このAIの時代に、何が起こるか誰にもわかりません。そして開発プロセス自体も加速しています」

「(創業者)カール・ベンツはかつてこう言いました。『発明への情熱は決して消えることはない』と。それはF1と同じです。あと0.0009秒を短縮できると信じたその瞬間、必ず新しいアイデアが生まれます。決して止まることはないのです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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